文字数 1,025文字

えっと……この小瓶の中身、紅茶なの? 冷たいけど……
「それ」はね。

君の欲しいものじゃなくて残念だけど

あたしの欲しいものって?
 ゾーイが聞きかけると、青い花が優しい口調で、
聞く前に、その腹ペコの虫に紅茶を飲ませてやりなさいよ
 ゾーイをたしなめるように言った。

ああ、そうね

 瓶の蓋をそっと開けると、紅茶の香りがふんわりと立ち上ってきた。手をかざしても、全然湯気は立っていない。
何か注ぐもの……
 ゾーイがあたりを見回すと、石像の近くに、ふちの欠けたカップがひとつ転がっていた。
(さっきテーブルの上にあったティーセットのカップが残ってたのかしら?)

 ゾーイは手に取り、カップに瓶の中身を注いだ。


 そのとたん、湯気の塊がふわりと立ちのぼり、紅茶は熱々になる。

わあ、なんで?


……美味しそう

 言ってから、はっとしたようにゾーイは口元を引きしめた。
ち……違うわ。こんな得体のしれない飲み物、あたしは飲んだりしない
どれ、それを拝借
 蝶はいつの間にかゾーイの手元に留まっていて、器用に脚でラベルを少しちぎり取った。それをぽとりとカップの中に落とす。
……溶けた
これがクリームだからね

 蝶は何でもないかのように言う。

 MEの文字は滲んで色を消し、ラベルは溶けだして白い模様を描き、クリームをいっぱい溶かしこんだ美味しそうな紅茶になっていた。

僕は紅茶は濃いめが好きなんだ
  蝶は後ろ足で器用にカップのふちにつかまり、頭を浸すようにして飲み始めた。


 すると、急に蝶の姿が変わり始めた。

?!

 角砂糖なのに頭はそれほど溶けない。インクを吸うペンみたいに、どんどんと紅茶を吸い上げていく。

 頭はうっすらと紅茶色に染まって、どんどん輪郭が滑らかになっていくように見えた。と同時に、薄黄色だった羽に少しずつ模様が入り始めた。見ていると、それはどんどんとはっきりしてくる。

ふう、満足
 飲み終えるころには、その羽はブドウパンに、体はラスクに、頭はゾーイの見たことのないものに変わっていた。ゾーイは「ワサンボン」というものを知らなかったのだ。

この紅茶はやっぱり格別だね!

 蝶はゾーイの手の上で食後の子供みたいにころりとひっくり返った。

 そこに、ゾーイは話しかけようとする。

ねえ、さっき言ってたのって……
 そのとき、遠くの茂みがガサリ、と揺れた。

誰かいるの?

 ゾーイは大きく踏みこんで声を上げたが、それっきり、音はしなかった。
気のせい……だったのかしら










……
**To Be Continued**
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登場人物紹介

ゾーイ?  13歳/人間/女


ウサギ穴に突き落とされた女の子。記憶をほとんど無くしてるけど、あたしはみんなが勝手に望んでるような「アリス」じゃない! あたしはあたしよ!

今の目標は、とっととこの変な、お菓子だらけの「不思議の国」を抜け出すことと、あたしをアリスだと勘違いしたあげく穴に突き落とした時計ウサギにあたしのほんとうの名前を教えてやること!

時計ウサギ  ?歳/動物/性別不明


ぴょん♪ ぴょんぴょぴょん。



   ……話せますが、なにか?

」  1歳/動物?/オス


僕はいわゆる「バタつきパン蝶」ってところかな? まあ、素材はいろいろ変わるから、蝶とだけ呼んでよ。ガゾウハイメージデスってね。僕はアリスのことはよく知ってるけど、ゾーイって子のことは知らないなぁ。

ダイナ(チェシャ猫)  7歳/動物/メス


ごしゅじんの飼い猫、ダイナにゃ。じつは「女王様」もダイナがけんぎょーしてるのにゃ。

ほとんどダイナのことしか覚えてないなんて、ごしゅじんは良いひとだけど困り者にゃ。

帽子屋(マッド・ハッタ―)  ?歳/人間?/男


ただのお茶会好きな気違いさ。

僕のことはあまり気にしないでおくれ。

シーップ  大人/動物?/メス


あぁ、くたびれっちまったよ。あたしゃずっと昔から、船(シップ)にぃ、乗ってる。陸よりぃ、こっちが合ってるのさぁあ。そぅして、編んでは船を漕ぐ(居眠りする)のさぁぁ。それがあたしぃの生き方さね。……はあぁぁ、アリス嬢ちゃんはよく知ってるよ。あの子はねぇぇ、あたしぃが見てやらないと、何もできない子でねぇぇ。あたしゃ言ってやったのさ……

ディー&ダム  0歳/卵/性別なし


「ウズラの卵の裏の色」   「ウズラの卵の表の色」

「まだ生まれていないから」「もう生まれることはないから」

「  「僕らには『自分』がない」  」

「 「だから紹介できることは何もない」 」

「「アリス? ゾーイ? あなたと会うのも、ここで初めてだけど」」


あなたに、話をするためだけにここに居た

???(ストーカーちゃん)  歳/人間?/女


…………「ゾーイ」なんて、皮肉ね。

あなたは、なんにも分かってないって言うのに。


[顔を厳重に隠し、弓と矢を持ち歩いてる女の子。誰かに似ているようにも見える。]

クロゥ?  ?歳/人間?/男


こんにちは、アリス。いや、『ゾーイ』だったかな?

どんな名前でもいいけどさ、ようこそ、この世界へ。ゆっくりしてってね。


僕の名前? ふふ、ひーみつ。僕のことなんか何も知らなくっていいのさ。

君には、最後に辿り着くまで、どうしてもこの世界に居てほしいからね。


[オッドアイのちょっと小柄な男の子。人間そっくりだけど、カラスみたいな鳥に見えたのよね……]

トランプ兵(代表:♣7)  ?歳/トランプ/たぶん男


なにかと「首切る」とか言われたり虐められる俺らマジ可哀そう。

いやホント、サンドバッグにすんの勘弁。

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