魔法学園

文字数 1,262文字

 春がきて、私は魔法学園に入学した。

 初めて来る場所なのに、とても懐かしい感じ。
 そりゃそうだよね。
 だって、あっちこっち、ゲームの背景と同じなんだもん。

『ロマンス・オブ・ファンタジア』は背景に力が入っていた。
 建築の歴史の専門家だかが監修していたらしく、しっかりした建物が描かれていた。

 まあ、専門家でもなんでもない私が見てもわかんないんだけど。
 違和感がないくらいにはしっかりと作られていた。

 前庭の花壇。
 校舎玄関。
 渡り廊下。
 女子寮。

 すごいすごい。
 全部ゲームの通りだ。
 まるで長い間東京で暮らした後、母校に帰ってきたひとみたいな気分。

 私がきょろきょろしながら女子寮に入ると、寮母さんが頭を下げてきた。

「お待ちしておりました。シルフィラ・ブラドフィリア様」

「あ、はい」

 え、なにこの歓迎。
 と思ったけどそりゃそうか。
 私、公爵令嬢なんですよね。

 慣れないなぁ。

「お部屋にご案内いたします」

「あ、はい。ありがとうございます」

 言われるままに寮母さんについていく私。
 いいのかなぁ。
 周りに新入生らしき人たち、いっぱいいるんだけど。

 その人たちは壁に貼られた案内図を見て、各々勝手に部屋に向かっている。
 あ、なんかさっそく友達になってる人たちがいる。

 むー。
 羨ましい。

 と、その生徒たちの中に、ルーデシアがいるのを私は発見した。
 この世界の『主人公』であるヒロインだ。

 貴族や大商人の娘が多いこの場で、庶民出身の彼女の慎ましい服装はむしろ目立っていた。
 誰も彼女に話しかけようとはしない。

 ここでの友達作りは、多くの生徒にとって将来の社交の場に向けての地歩固めだ。
 その観点から言ったら、庶民のルーデシアに話しかける理由はないんだろう。

 ルーデシアは案内図を見ようとして生徒にぶつかられて、逆に謝りながら自分の部屋に向かっていった。

 大丈夫かな。
 なんか心配になる。

「どういたしましたか、シルフィラ様?」

「あ、いいえ」

 気になったけど、寮母さんに呼ばれたので、私はついていく。

「こちらでございます」

 は?
 でっか!

 さすがに公爵邸の部屋ほど広くはないけど、寮の部屋のサイズじゃないよこれ。
 しかもこれで一人部屋?

「こちらの続き部屋はメイドの方々の部屋となっております」

 おかしいおかしいおかしい。
 ただでさえ広いのに続き部屋まで!

 いや確かにメイド、いるんですけどね、二人。
 言ってしまえばこれも慣れない。

 プライベートな空間に、別の女の子が二人、常に控えているのだ。
 落ち着かないよ?

 いっそこの二人のベッドもこの部屋に運び込んで、ルームメイトみたいに過ごしてもらったほうが気が楽なんだけど。
 そういうわけにはいかないんだろうなぁ。

 はい、諦めます。
 こんなに恵まれた環境を用意してもらってるんですもの。
 文句なんて言えません。
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