金属光沢を泳ぐ影

文字数 299文字

 カマイルカのスイが死んだ。六歳だった。新聞の地方面の小さな記事でそれを知った。私が水族館の受付アルバイトを辞めて二年が経っていた。働き始めてすぐの頃に生まれた彼には、妙に親しみを感じていた。あの水族館は入館口からすぐの所にイルカのプールがあり、受付に立っていると自動ドアの銀色の部分にイルカ達が泳ぐ姿が映り込んで見えた。どれがスイかはすぐ分かった。彼は周りのイルカより一回り小さく、鎌状の背びれがほとんど白かったから。
 地下鉄の手すりに、キッチンのシンクに、シルバーの指輪に、今日もまた流線型の小さな影が過ぎる。それは白い鎌のような突起がある、ような気がする。泳げ。君の気が済むまで泳いだらいい。
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