帝国について

文字数 300文字

 南進により木の匙一杯分の香辛料が加わったこと、それが帝国の始まりだった。
 帝国はまだ帝国としての名を持たぬ頃から際立った柔軟さを備えていた。山の向こうから、川の行先や地平の彼方から流れ着いたものをのべつ幕なしに取り込んだ。油、果実、家畜の乳に肉。えもいわれぬ香りと深い辛味の中であらゆるものが手を取り合った。
 帝国の領土は物質に留まらず、人の欲望を、技術を呑み込んだ。帝国の貪婪さを加速させた小さな島国の者たちの功績については論を俟たない。彼らの尽力によっていずれ帝国は月にも辿り着くだろう。
 国際宇宙ステーションへの持ち込み希望品リストには今回も「カレー」の文字がしかと記されている。帝国、万歳。
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