代々

文字数 296文字

 祖父の使う介護ベッドからは窓の外が良く見えたが、右側のカーテンは必ず閉まっていた。そこに見える(だいだい)の木を祖父が嫌うからだった。
 祖父がまだしっかりしていた頃、俺は実を一度捥いでみようとした。「あれは常世のものだ。触っちゃならん」と厳しい口調で叱られた。確かに年中実っている橙は異界じみた存在感があったが、(代々)の名の通り俺の知らぬ間に代替りしているのだと思っていた。
 だからそれは子供の好奇心だった。そのはずだった。
 祖父の家のあった土地を売り払うため、業者にあらかた伐採された庭木の中に、俺の名前が刻まれた実が転がっている。俺はすっかり老いた自分の手を握りしめる。掌から汗が滴って地面に染みた。
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