第3話 グランドの虐め
文字数 703文字
○東京台東区、隅田川河川敷グラウンド
リトルリーグ二部予選
昭和61年3月下旬、天候雨
「おまえがエラーしたから負けたんだぞ!」
「おまえが三振したから勝てなかったんだ、最後のカーブだって見逃すくらいなら振れよー」
監督の黒川の計らいで急遽ライトからセカンドにコンバートされた中川大地(9)は、最終回の表にエラーをしたあげくに裏の好機に三振したことでチームメイトから袋叩きにあっていた。
大地にも言い訳は山程あった。自分はまだ四年生で身体が周りより一回り小さく非力なこと、天候が不順で雨でボールがイレギュラーバウンドした事などなど。
それでもチームメイトは許してくれなかった。大地は小柄な身体にダブダブのユニフォームを雨に濡らして足を引きずるようにして監督の黒川の所まで辿り着いた。
「おまえには気合と根性が足りん。バットを敷いてその上で正座して今日の失敗を反省してから帰れ!」、野球帽を目深に被りサングラスを常時掛け、口髭を濃く蓄えたこの黒川は、大地は恐ろしくって仕方がなかった。
監督の命令は絶対である。大地は泣きたい気持ちをこらえて三塁側のファウルグラウンドでバットの上で正座を始めた。
(痛いなあ)、
まだ小雨がチラホラと降っている。下に敷いたバットが脚を締め付けてくるが、今日のグラウンドの失態で明日また学校で虐められると思うとそっちの方が数倍精神的に辛かった。
(ああ、いっそ消えていなくなりたい)、
生来小柄で性格も優しい大地をもっと逞しく育てようと祖母のきくが地元の元町タイガースに入団させた事が、大地にはかえって恨めしく思えてきた。
(おばあちゃんには悪いけど、もう辞めたいなぁ)