第20話 いきなりのお誘い?

文字数 2,026文字

 明菜ちゃんのおしゃべりの勢いにブレーキが掛かった。静かになったかと思ったらそのまま沈思黙考がしばらく続く。一分近くが経とうとして、こちらから声を掛けようとする寸前になって明菜ちゃんが口を開いた。
「すでにお約束外しで笑いを生み出す作品がたくさんあると知っているから、そちらに引っ張られちゃうのかもしれない。ていうことは、よ。お約束外しは、シリアスな物よりも笑いに走った物の方が多いってことの証明になってると言えなくない?」
「まあ……そうなのかな」
 どちらの傾向の作品が多いか少ないかの他にも、印象に残りやすいかどうかもあるとは思うけれども、一応、明菜ちゃんの言うことにはうなずける。
 私が賛成の意を示したので満足したのかしら、明菜ちゃんはうんうんとうなずいた。
「よかった。ありがと」
「え? 私何にも答えてないよ、そっちの相談事に」
「いいのいいの。半分愚痴みたいなものだったし、聞いてくれただけでもよかったんだ。理解してくれる人がいると分かってるだけで、一歩踏み出す勇気が持てる」
「そ、そう? 役に立てのならうれしいけど」
 自覚がないのに感謝されるのって、くすぐったい。

 その日の夜、小説投稿サイト唯ノベルにアクセスし、近況報告の欄に明菜ちゃんと交わした話の内容を書く寸前まで行った。二人でやり取りした会話をそのまんま書くと、明菜ちゃんに“富叉幡鵬”が私だってばれてしまいかねない。そう気付いて、思いとどまる。話のポイントだけ絞って書けばいいかなと知恵を捻っていると、時間がどんどん過ぎていった。
 そうこうしている内に、ふと気付くとメールが届いていた。唯ノベルでの何らかのアクションが起こされたときに届くよう、設定しているメールだった。唯ノベルの主催社サイドからの比較的重要なお知らせか、そうでなければ他のユーザーから感想などが書き込まれましたよという通知だ。通知・非通知が選べるし、端から感想などを受け付けない設定もできる仕様になっているけれども、私はとりあえずすべてオープン状態にしてみている。このサイトに登録し、活動を始めてから数ヶ月が経つけれども、今のところは嫌な目には遭っていない。少ないけれども、いい目の方がちらほらあって、やってよかったと感じてるわ。
 新着のメールは一通で、タイトルは“私信が一件あります”となっている。この文言のタイトルは初めてもらった。作家さん同士のメッセージのやり取りは当然行われているのだけれども、誤字などの指摘を含めた感想なんかは、作者側が公開非公開を選べる仕組みになっているのに対し、原則的に他言無用な内容のメッセージは“私信”と称して、マナーとして第三者に内容を明かしてはならない。違反したことがばれた場合は、サイト側から警告が来たり、ID停止にされたりするという。もちろん、私信の内容そのものが規約に反する場合はこの限りじゃなくて、サイト側への速やかな報告が求められている。たとえば商売をしたり宗教に誘ったりといった、現実の世界ではOKなことでもサイト内ではだめとなっている。
 と、初めてのことに少々動揺した私は、規約のページを改めて開いて関係する事項を確認して、安心してから、メールを開いた。
「なぁんだ、透さんからだったのね」
 差出人の名前を見て、安心感が増す。まだ知らない人からだと緊張が強まるけれども、すすき野ヶ原透さんとは、すでに幾度か言葉を交わしていて、真面目で感じのいい人と分かっている。なので、ほっとして中身に目を通せた。
 けど、次の瞬間には心拍数が上がるほどどきりとした。
 メールのタイトルとは別に、本文のタイトルがあるのだけれども、透さんが付けたタイトルは<共作をしてみませんか>とあったのだ。
「共作って……二人で、ううん、二人とは限らないか。複数の人で一つの作品を書き上げることだよね」
 確認のため、声に出していた。同じ発音の「きょうさく」で、「競作」という言葉もあるから、間違えないようにしなくちゃ。
<突然このようなぶしつけなメールを出すことを、ご容赦ください。
 表題の通り、僕・すすき野ヶ原透と共作をしてみませんかというお誘いです。
 驚かれたかもしれませんが、深刻に受け止める必要はありません。重いなあ、興味ないなあということであれば、どうか遠慮なく断ってくださってかまいません。ご自身の作品執筆で忙しいとか方向性が異なるから難しいといった理由の説明は不要です。また、断られたからと今後疎遠になることはなく、これまで通りの距離感で、(読んで気になった)御作にコメントしていくとお約束します。
 反対に、ちょっぴり興味があるな、説明だけでも聞いてみようかなという気持ちがわずかでも起きたのでしたら、気安くお尋ねください。説明を聞いた上で断るのももちろんありです。だからほんと、お気軽に。
 お忙しいところを私事(わたくしごと)のメールでお目汚しして、すみません。
 お返事を気長にお待ちしています。>

 つづく
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