第31話 アイロンがけ

文字数 863文字

 夫が定年退職してから、極端に減った家事があります。

 それは、アイロンがけ。今日、久しぶりにアイロンを使った。夫が会社員だった時の通勤着はスーツ。ジャケットの下はワイシャツ。1週間分の5着はアイロンで仕上がった状態にしておくのが常だった。ほとんどが白でそれ以外はブルーか薄く細い線のストライプなどを持っている。

 結婚当初、ワイシャツはクリーニングに出していた。私より1年ほど先に結婚した友人がそうしていたから。単価は他の衣類に比べ安かったが、週5枚で1ヶ月になると、まとまった金額になる。ある日、夫が

「ワイシャツは家で洗って」

と言ってきた。当時、専業主婦ではなかったが、正社員でバリバリやるほどの仕事もしていなかったので、言われるまま自宅で洗いアイロンがけをする生活がスタートした。最初は1枚仕上げるのに20分くらいはかかっていたと思う。独身時代のアイロンは母任せだったので、どの部分からかければいいのかすら知らなかった。20分かけて仕上げても、決して褒められた物ではなかったが、夫はそのワイシャツを毎日着て出勤した。細かいシワが伸ばし切らず、申し訳なく思い、ある日

「クリーニングに出した方がいいと思うんだけど……」

と提案したこともあったが『コレでいい』と言われ、以降ワイシャツと本格的に向き合うことになる。襟から始めて、肩、袖、前身頃の半分、後ろ身頃、そして前身頃の順で基本を覚え、時折かけ方の情報を仕入れながら、何とか上手くいかないかと奮闘した。その後、子どもたちの幼稚園入園から高校を卒業するまでが、大量の洗濯物時代。多いときは2時間以上かけ続けることもあった。私が使うアイロン台は正座してかけるタイプで、暑い季節になると膝裏から汗が流れた。加齢とともに正座がキツくなり、正座椅子(ご存知ない人はググってみて。意外と便利よ!)で乗り切った。今は法事で活躍中。

 アイロンがけ。実は嫌いじゃなかった。録画した韓流ドラマをお供にスイスイとやっていたから。忙しかったけれど、充実した時間だった。

 過ぎてしまえば、いい思い出です。






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