第10話 客観視

文字数 918文字

 他人のふり見て我がふり

直す、そんな情景に会いました。

 父の病院でのこと。ここ2年ほどで、病院に着いてから診察までのルーティンができた。
先ず父を玄関前で降ろし、私は駐車場に。父は杖をつきながらボチボチ歩き、診察券を機械に通す。その後2階の採血室へ移動。大抵ここまでは1人でやることになっている。そして待合室の席にドカッと腰を下ろし、私が追い着くのを待っている。

 30分ほど待って採血。そこから診察まで1時間半ほど待ち時間がある。公共の総合病院なら、当たり前の話。通院したてのころ、待っている途中で父が薬を飲む時間になった。ペットボトルの水を買っても良かったが、人混みの待合室で飲ませたくなかった。そこで少々割高にはなるけれど、院内の喫茶室で出される水を思い付いた。ここなら人も少ないし、水はコップで出てくる。もちろんコーヒーの注文をしなくてはならないが、朝なのでトースト、ミニサラダ、ゆで卵が付いて430円也。お得なようなそうでないような。でも、このルーティンは父も気に入ってくれているはずだ。

 この日は私たち以外に、2組の同世代と思しき親子連れが近くに座っていた。私の真後ろの親子は母と娘。母親がしきりに夫の愚痴をこぼす。それを聞いた娘は『そういう人なんだから、仕方ない』的なことを言ってなだめていた。しばらくして、愚痴の矛先である父親が合流。母親は夫の診察状況を聞き、さも心配してるかの言動に変わった。そのあからさまなやり取りが、聞く気の無い私の耳にも入って『何処も一緒だな』と変な安心を覚える。

 その親子が席を立ち、今度は患者である母親と娘の話が聞こえてきた。母親が何やら病気のことを事細かく娘に話しているようだったのだが、突然娘が遮るように

「もう病気の話はしないで!」

とウンザリした口調で言った。今までペラペラと話していた母親は、一瞬で静かになった。ああ、アレはまさに今の自分だ。こうして客観的に見ると母親がどんな気持ちで黙ったのかが想像できる。娘の気持ちは百も承知。父も私も会話をほとんどしない。父は本、私は投稿文を書いている。喫茶室を出た時、父が言った。

「何処も一緒やな」

 同じ立場の親子を見て、なんだか切なくなりました。
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