第1話 到来カウンセラー
文字数 1,173文字
「ヴァスコ・ダ・ガマになりたい人生だった」なんて、言ってみたかった。 実際、本当に思っていたのかも疑わしいし、何かになりたいとか、何かをしたいとか思ってる人の方が少数なんじゃないだろうか。
僕はその、少数にはなりえなかった。
風が吹き抜ける屋上。 もうじき定時制のチャイムが鳴る頃、独りの男子生徒がものうつげな表情で地面を見下ろしていた。
柵にもたれ掛かり、ぼーっとしていて、死んだ魚のような目をしている。 彼は静かに柵を少し乗り越え、宙に身をなげだすすんででハッと我に帰ったように慌てて態勢をもどし、倒れるように座り込んだ。
「はっッ…はぁッッ」
息は乱れ、体は細かく痙攣している。 足は地についていないかのようにふわふわしていて、投げ出されなかった事を惜しんでいるようだった。
「なんや、とばへんのか」
急に後ろから声が聞こえ、呼吸を乱したまま振り返ると、そこには見覚えのない長髪の
男子生徒が独りー…いや待て、いつからそこにいたんだ。
間違いなく僕一人だと思っていたのに、というか今なんて言った?
「てっきり身投げでもするんかと思ったんやけど、ちょっぴり早とちりやったか」
あ、今のはしっかり耳に入ったぞ。 こいつ、俺が飛びおりそうになってたのをずっと見物してたのか、なんだよ、それ、そんなのーー…
「趣味が悪すぎるだろ…」
口に出した瞬間、しまったと思った。 いくら向こうが悪趣味な人間とはいえ、初対面に“趣味が悪い”なんて言うべきではないからだ。
けれども幸い向こうは聞こえていない様子で、ニコニコ……いや、ニヤニヤしながらなめ回すような目でこちらを見てくる。
「はは、趣味が悪いとはよーゆわれるで?でも悪趣味も趣味の一つやし、俺からすれば立派な趣味やと思うけどなぁ」
彼は変わらぬ調子でこんな事をいった。 多分、そう言っていたと思う。 言葉は分かっても意味がうまく理解出来なかったからなんともいえないけど、こいつが苦手なタイプだってことは明確に分かった。 というか聞こえてたんじゃないか。 僕の安堵を返せ
あからさまに顔を歪めた僕に構いもせず、彼はまるで今思いだしたとでもいうよな口調で 「あぁ、そういえば」 なんて言った。 僕は今日ここで初めてこいつにあったけど、流石に今思いだした訳じゃないって事は分かる。
分かりやすく 「興味がない」 という顔をしてやったが、やはり彼に気にする様子はない
「実は俺、趣味でカウンセラーをやっとってさぁ、悩める子羊ちゃんがほっとけんねん。お宅、どーやら訳ありみたいやから 話きぃたりたいなぁ~って思ってんやけど…どう?」
どう?じゃないだろ。 なんていつもの僕なら思ったんだろうけど、その時僕はそうは考えられなかった。
だってその日僕は本当に、一瞬、死のうと思ったほどに追い詰められていたんだから
僕はその、少数にはなりえなかった。
風が吹き抜ける屋上。 もうじき定時制のチャイムが鳴る頃、独りの男子生徒がものうつげな表情で地面を見下ろしていた。
柵にもたれ掛かり、ぼーっとしていて、死んだ魚のような目をしている。 彼は静かに柵を少し乗り越え、宙に身をなげだすすんででハッと我に帰ったように慌てて態勢をもどし、倒れるように座り込んだ。
「はっッ…はぁッッ」
息は乱れ、体は細かく痙攣している。 足は地についていないかのようにふわふわしていて、投げ出されなかった事を惜しんでいるようだった。
「なんや、とばへんのか」
急に後ろから声が聞こえ、呼吸を乱したまま振り返ると、そこには見覚えのない長髪の
男子生徒が独りー…いや待て、いつからそこにいたんだ。
間違いなく僕一人だと思っていたのに、というか今なんて言った?
「てっきり身投げでもするんかと思ったんやけど、ちょっぴり早とちりやったか」
あ、今のはしっかり耳に入ったぞ。 こいつ、俺が飛びおりそうになってたのをずっと見物してたのか、なんだよ、それ、そんなのーー…
「趣味が悪すぎるだろ…」
口に出した瞬間、しまったと思った。 いくら向こうが悪趣味な人間とはいえ、初対面に“趣味が悪い”なんて言うべきではないからだ。
けれども幸い向こうは聞こえていない様子で、ニコニコ……いや、ニヤニヤしながらなめ回すような目でこちらを見てくる。
「はは、趣味が悪いとはよーゆわれるで?でも悪趣味も趣味の一つやし、俺からすれば立派な趣味やと思うけどなぁ」
彼は変わらぬ調子でこんな事をいった。 多分、そう言っていたと思う。 言葉は分かっても意味がうまく理解出来なかったからなんともいえないけど、こいつが苦手なタイプだってことは明確に分かった。 というか聞こえてたんじゃないか。 僕の安堵を返せ
あからさまに顔を歪めた僕に構いもせず、彼はまるで今思いだしたとでもいうよな口調で 「あぁ、そういえば」 なんて言った。 僕は今日ここで初めてこいつにあったけど、流石に今思いだした訳じゃないって事は分かる。
分かりやすく 「興味がない」 という顔をしてやったが、やはり彼に気にする様子はない
「実は俺、趣味でカウンセラーをやっとってさぁ、悩める子羊ちゃんがほっとけんねん。お宅、どーやら訳ありみたいやから 話きぃたりたいなぁ~って思ってんやけど…どう?」
どう?じゃないだろ。 なんていつもの僕なら思ったんだろうけど、その時僕はそうは考えられなかった。
だってその日僕は本当に、一瞬、死のうと思ったほどに追い詰められていたんだから