第4話 クアルト!

文字数 2,296文字

「はぁぁぁあああ!?!?葉月!!!
 お前今イカサマしたろ!!」
「イカサマァ~?くふふ、負け惜しみは良くないでぇ江口くん?」
 
 今、僕をほっぽったらかしにしてボードゲームをしてるのはクソロン毛野郎の葉月とボドゲ部の江口さんだ。

率直に言おう。この葉月とかいう男、
こいつはクズだ!!
もうすっかり僕のことなんか忘れて江口さんと二人で遊んでやがる。やっぱりこんな奴に付いていくんじゃなかった。
 そう後悔しても、今ここで帰るのはこのクズに負けたような気がしてしまうので、僕はただ大人しく葉月を睨みつけながら待つことしかできない。
だが恨めしいことに、僕は自分の中にまだプライドというものがあったことに内心ほっとしていた。
この場所といい、心情といい、忌々しく場違いである。

そんな僕の視線に気づいたのは、葉月…ではなく江口さんだった。彼は一瞬気まずそうな目をして、トントンと葉月の肩を叩く。

余談だが、僕はコソコソ話をしている人を見るのが苦手だ。何か言われてるんじゃないかと不安になる。
江口さんに何やら耳打ちされた葉月は思い出したかのように「あぁ!」と言った。最初の「そういえば」と違い、本当に忘れていたんだろう。「すまんすまんオウガくん!すっかり忘れとった!でも、今のでこのゲームのルールは一通り分かったんちゃう?」だから忘れてたのも結果オーライ、だと?ふざけるな、
本気で怒るぞ。
しかし幸い僕は怒りのメーターは下がり易い方だったので、なんとか堪忍袋の緒を切らずにすむことができた。
「…今…やってたやつ、ポーカー…だっけ?
それはややこしすぎるからまだ無理だ。」
「そっかぁ~、なら無駄な時間やったなぁ」
だから、誰のせいで!

「あー…なら、 これとかどう?」
おそらく無意識で煽っている葉月を見てられなくなったのか、江口さんが箱の山から一つのボードゲームを取り出してくれた。
クアルトと書かれたその箱には、本体と思われる写真がはってある。
「クアルトかぁーー!ええなぁ!これならオウガくんでもすぐできるで!」
いちいちかんに障るやつだな。
「クアルト、僕全然知らないんだけど」
「大丈夫や。ルールは簡単!4×4のこのボードに16種類のコマを置いてくだけやから!
いえば、ちょっとひねったマルバツゲームみたいなもんやで」
正直、この説明だけじゃよく分からないが、どうやらボードゲームというものは習うより慣れろとの事なのでとりあえずやってみる事にした。

コマには、白と黒、二段と一段、穴あき穴なし、丸と四角の要素をそれぞれシャッフルしたコマが16個あり、4×4の丸の描いたボードが1つあった。
「その中から1つ好きな駒を選んでくれ」
江口さんに言われるまま僕は駒を1つ適当に選び、ボードに乗せようとした。
しかし、その駒は横にいる葉月にひょいと奪われた。もしかしたら僕はとんでもないゲームに参加してしまったのかもしれない。絶句している僕に構いもせず、強奪した駒を葉月はボードの隅に置いた。
「これ黒いやろ?それからタッパがなくて四角で穴があいとる。この駒で四列揃える時は、
黒の要素を四つ揃えるか、
四角の要素を四つ揃えるか、
一段の要素を四つ揃えるか、
穴あきの要素を四つ揃えるか
のどれかを満たせばええんや」
人差し指で列をなぞりながら懇切丁寧に教えてくれる葉月。それはそうとさっき強奪したのはどういう要件だ。納得できるように説明しやがれ。
そう思っていると、葉月は次に自分で選んだコマを僕に渡してきた。
「相手の選んだコマを置くのがルールなんだ」
横から江口さんが言伝してくれた。
それに便乗して葉月も 面白いやろ? と、ニヤニヤした顔でこちらを伺ってくる。
いや、取る前に言えよ…、そう胸の内で呆れ帰ったが、声にだすことはなかった。

勝負は呆気なく終わった。

クアルト…、シンプルで簡単なゲーム。しかし、これが案外難しくて、リーチを見落としていたり、詰みになるように追い詰められたり…、なにより、自分の選んだコマで負ける分、ものすごく悔しい。
___そう、大抵のクアルトの経験者は語るらしい。
が、クアルトの勝敗は勿論、やってみたが特に何も感じなかった。強いて何か言うなら、どこに置くべきか悩んでいる僕の駒を猫が鼠をロックオンしたように目で追ってくるのは少し面白かった……気がする。
勝負は負けた。
どうやら僕は一度、横一列に要素が揃っていたらしい。
気づかずそのまま進め、急に葉月が「クアルト!」と叫んだ時は、あぁ…、こいつさてはまだ言ってないルールあったな…と、長年の付き合いのような思考をしてしまった。
「惜しかったなぁオウガくん!揃った時はクアルト!って言わなあかんのやで!さっき揃ってたのに勿体ないわぁ~」
は?と、声にでた。そんなルール今初めて聞いたぞ。こいつ本気で1回叩いていいかな。
「葉月…、お前そのルール言ったのか?」
江口さんが、葉月の右肩に手を置きながら、宥めるように声をかけた。
「あ!言ってへんかったか!すまんすまん!許してーや」
僕が言う前に江口さんが先に葉月に言ってくれた。
呆れた僕らの気持ちもつゆ知らず、葉月はあっけらかんと笑っている。

こういう奴なんだな。と、低い解像度で限りなく正解に近い理解をした。

江口さんのような器の広い人じゃないと付き合いきれないだろう。
僕に至ってはもうお腹いっぱいだ。

それなのにこの男は…、もう食べられないと言って腹を押さえる人間に、自分が愉しむ為に次の料理をドンドン運んできて、食べきれず苦しむ人間を作り出す。

無垢な悪魔…、いや、ただの愉快犯か。

また僕の知らないボードゲームを次から次へと持ってくる葉月を見て、僕はそう思った。
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登場人物紹介

名前:葉月(はづき)

関西弁で喋る

趣味オタク

長髪

名前:空町 大河(そらまち おうが)

生きがいがない

生きたくないけど死にたくない

葉月に振り回されている

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