第2話 趣味オタク葉月

文字数 1,117文字

「なるほどなるほど、つまり一言でまとめるとお宅は生きたくないけど死にたくなくて悩んでるっちゅーことやな?」
 「死にたくないというか死ぬ勇気が出ないだけなんだけど…うんまぁ、そんな感じ」

 僕はほとんど引っ張られるような形で、三階の誰もいない空き教室に連れてこられた。
 机を通して向かい合わせに座る様は、まさにカウンセラーのそれである。

 「僕…人生がつまらないんだ。君には分からないかもしれないけど、どうゆうものが流行っても、どうゆうものに誘われても、全く興味がもてなくて」
 長髪の男子生徒ー…
もとい葉月と名乗った男は ふむ、と小さい声で相づちをうってくる
 「特に得意なものもないし、好きな物もない。 かろうじて何かやったとしても
長続きしないんだ」
 「こんなにつまらない退屈な日々が淡々と
続くのかと思ったら、段々日常が地獄に思えてきて」
 「それで…死のうと思った。 でも、それも出来なかった」
 話が終わると、葉月は一回目を閉じ、少し考えるような仕草を見せた後、カッ! っと目を見開き、ぐんっと顔を寄せてきた
 「趣味は?」
 「は?」
 「だーかーら!、趣味はないんかって聞いてんねん。」
 「…………ない」
 途端葉月は全くもって信じられないという顔をした。 さっきまで紳士に聞いてくれていたというのにどうしたものか
 「そんならお宅、毎日何してたん!?一日は24時間もあるんやで!?」
 
 こいつ、話を聞いてなかったのか 
 特に好きな事もなくて やっても長続きしないって、さっき言っただろ
 「・・・・」
 僕は葉月の言う事に対して沈黙を貫いてやろうと決めた。
 決して苛ついたからとかそういうんじゃない。
 「もったいないわぁ、もったいないでお宅。人生損しとるよ」
 今までの僕の人生を完全否定するような発言に、僕はびっくりした。
 お前本当にカウンセラーか? と言おうとした時、葉月が趣味でカウンセラーをしていると言っていたのを思いだした。
 趣味…趣味ね。 今思い返せば、こいつは二言目には“趣味”だった。
 趣味にしたって随分いい加減だとは思うが、趣味のない僕には はっきりいい加減だといえるほどの知識も経験もなかった。

 珍しく僕の複雑な心境を感じとったのか、葉月は一つ、ごほんと咳払いをして 改めるように組んだ手を顔の前に持ってきた
 
「それなら君、俺と一緒にしようや、趣味探し」

 やはり行き着く所は趣味だった。
葉月は断られる訳がないといった風に、楽しそうにニヤニヤしている。
 どうやら僕はとんだ趣味オタクに捕まったらしく、おそらくこれからあれやこれやと振り回されるのだろう。
 
 これが、 趣味オタク葉月と何もない僕、
空町 大河 の趣味探しの始まりだった。
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登場人物紹介

名前:葉月(はづき)

関西弁で喋る

趣味オタク

長髪

名前:空町 大河(そらまち おうが)

生きがいがない

生きたくないけど死にたくない

葉月に振り回されている

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