第2話 梅酒の重要材料「蒸留酒」

文字数 1,935文字

 梅酒について語る上で欠かせないのが「蒸留酒(スピリッツ)」の存在。現代におけるあらゆる梅酒は、蒸留酒、梅、糖で作られる。
 まずは蒸留酒とは何ぞや?ということについて記しておこう。
 蒸留酒は「蒸留」によってアルコール濃度を高くして作られるタイプの酒で、焼酎、ウィスキー、ブランデーなどが該当する。
 これに対し、蒸留を行わずに作られる日本酒、ワイン、ビールなどは「醸造酒」と呼ばれる。蒸留酒や醸造酒をベースとして、何かを混ぜたり漬けたり酒は「混成酒」として分類される。
 酒は酵母菌を使って糖を発酵させ、アルコールと二酸化炭素に変えることで作られる。この過程が「醸造」だ。

 ワインなどは果物に含まれる糖がそのままアルコールとなる。米や麦の場合は糖ではなくデンプンが主成分だが、デンプンは分子量が大きくて酵母が分解できない。
 このため、何らかの方法でデンプンを糖へと分解する「糖化」の工程を経る必要がある。
 ビールならば、麦が発芽したときに作るジアスターゼという酵素を利用する。貯蔵性の良いデンプンを、成長するためのエネルギーに変換しやすい糖へと分解する酵素だ。日本酒の場合はコウジカビを使って米のデンプンを糖化する(この状態でそのまま飲むのが甘酒だ)。
 こうして用意した糖を酵母に発酵させて作るのが醸造酒だが、醸造酒はアルコールの濃度が高くても十数%しかない。
 酵母が作るアルコールは、糖を食べてエネルギーに変える際の副産物であるとともに、生存競争のライバルとなる他の微生物の生育を抑制する武器でもある。だが、あまりにアルコールの濃度が高くなり過ぎれば自分も生存できなくなるので、醸造で作られるアルコールの濃度には限界があるのだ。
 それ以上のレベルに行くには人間の手を加えなくてはいけない。その工程が「蒸留」だ。

 アルコールは水より沸点が低い(一気圧条件下で78.4℃)ので、お酒を温めると、先にアルコールだけが蒸発して抜けていく。日本酒を燗する際に温め過ぎると、アルコールが抜けてまずくなってしまうのはそれが理由だ。
 逆に蒸発したアルコールの蒸気を回収していけば、より高い濃度のアルコールが得られる。
 このように沸点の違いを利用して目的の物質だけを取り出す方法が蒸留だ。おそらく、中学の理科でみんな学んだことだろう。蒸留酒は醸造によってつくった酒を蒸留することで、アルコールの濃度を大きく高めた酒なのだ。

 蒸留酒を作る際の蒸留方法は、単式蒸留と複式蒸留(連続式蒸留)の2つがある。
単式蒸留は最も基本的な方法で、酒を容器に入れて熱する→蒸発してきたアルコールが上にある細い管を通ってくる→通る間に冷えて液体に戻る→それを回収、という仕組みだ。
 アルコールだけでなくいくばくかの水分と、元の酒に含まれていた成分――材料の成分や、酵母が発酵の際に同時に作りだした香り成分など――も一緒に入ってくる。
 悪く言えばアルコールの純度が低く不純物が入っている。良く言えば味や香りが失われずに濃縮されている。

 この蒸留の技術は紀元前13世紀ごろのエジプトですでに見出されていたようだが、より洗練された形になったのは13世紀ごろのヨーロッパの錬金術師による功績が大きいらしい。
 蒸留によってつくられた高アルコールの酒、つまりは蒸留酒は「アクアヴィデ(命の水)」と呼ばれ、蒸留酒の呼び名である「スピリッツ」も人に魂(Spirits)を吹き込む水という意味から付けられた。

 伝統的な単式蒸留に比べ、連続式蒸留は19世紀に登場した近代的な蒸留法だ。
 この蒸留器は複雑な形をしていて、いったん蒸留したアルコール入りの蒸気のなかで度数が低い物を、これから蒸留する液の所に戻してさらに蒸留する。
 1つの蒸留器で不純物を取り除きながら何度も繰り返し蒸留して、どんどんアルコールの濃度を高めていく仕組みだ。こうして、最終的には最高で96.4%の純度のアルコールを製造できる。
 蒸留を繰り返す過程で香りの成分などは飛んでしまっているので、アルコール以外の味や香りはほとんどない。良く言えば少ない手間で不純物の少ないアルコールを製造できる。悪く言えば香りや味が飛んでしまっている、という具合になる。
 連続式蒸留で作られるアルコールは、そのまま酒として使うのではなく、熟成、ブレンド、香り付けや味付けなどを行って酒にすることが多い。

 蒸留では96.4%以上の純度にすることは出来ないので、消毒用や工業用の純度99.9%以上の無水アルコールを作るためには、別の成分を添加することで脱水して濃度を高める工程が加わる。
 こうした処理を施したアルコールは飲用には適さないので、消毒液や燃料用エタノールは飲まない方がいいとされるのだ。
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