第3話 なぜ梅酒は蒸留酒で作るのか?

文字数 1,272文字

 ところで、梅酒は必ず蒸留酒で作られると書いたが、そもそも何故蒸留酒でなくてはいけないのか? 日本酒やワインじゃダメなの?と思った人もいるだろう。
 日本酒やワインでも作れなくはないだろうが、日本ではまず行われない。それにはいくつか理由がある。

 まず、アルコール度数が高いほうが成分を効率よく抽出できるということ。
 エタノールは分子量が小さい有機溶媒なので、水には溶けない成分も抽出しやすい。梅の味や香りを十分に引き出すためには、度数は高いほうがいい。
 次の理由は保存性。梅酒は貯蔵しなくてはいけないが、度数が低いと保存中に細菌が繁殖してダメになってしまう。
 醸造酒は度数が低く、梅から出てくる水分で貯蔵中にさらに度数が下がるので、細菌が繁殖しやすいのだ。ワインや日本酒も少し油断すればすぐに変質してしまうので、これらの酒を使って梅酒を作るのは難しい。

 だが、それら以外にも大きな理由がある。
 それは「酒税法」。
 どこの国でも酒を造るのには税金が掛けられ、免許を持っている業者でないと作ることはできない。日本でも無免許でどぶろくを作れば酒税法違反になる。そして、日本の法律において度数20未満の酒を使って梅酒を作るのも酒税法違反だ。

 梅を酒に漬けるだけなのに、なんで密造酒扱いなんだ?と思うかもしれないが、そう単純ではない。
 酒のアルコールを生産する酵母菌は、実はどこにでも生息している。果実の表面にも生息しており、古代にワインが作られるようになったのは、ブドウの表面に最初から生息していた酵母菌が果汁を発酵させたことが切っ掛けだ。
 度数20未満の酒で梅酒を漬けた場合、梅の表面などに付いていた酵母はこの程度のアルコールでは活動を停止せず、氷砂糖の糖分を栄養に発酵を始めてしまう。これが酒の醸造と同じとみなされ、酒税法違反となるという理屈である。

 このため、日本酒やワイン、ビールなど、度数が20以下の酒で梅酒を作ることはできないのだ。もちろん他の種類の果実を漬ける場合も同様だ。
 20度以上であるならば、氷砂糖で少々薄まっても酵母が生き延びて発酵を始められる域には下がらないので、醸造ではなく抽出のみでOKとみなされる。

 同じ理屈で、ワインで「サングリア」を作れないということも知られている。サングリアはワインにオレンジやリンゴなどのスライスを入れて、はちみつやジュースで味付けし、ブランデーやスパイスで香りを付けて作るフレーバーワインだ。
 作る際には香りをつけるために果物を漬けて一晩おくのだが、その一晩のうちに酵母が発酵を始めるので、これまた酒税法違反となってしまう。
(国税庁も法律に違反になるよと、はっきりと回答している……)。
 お店で出そうと思ったら、注文を受けてから味付けをして、果物のスライスを入れてすぐに出すしかないが、それって本当にサングリアか?と言われると困ってしまう。

 細かいことにうるさいよなあと思うが、酒税というのは政府にとって重要な収入源の一つなので、昔からどの国でも密造酒に対してはかなり口うるさいのがデフォなのだ。
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