第1話

文字数 513文字

 ふわふわの卵の下には何が入っているのだろうか。私は使い捨てのプラスチック・先割れスプーンをそっと黄色い卵に差し込む。
 私は白崎清雅(しらさき せいが)、花屋を営む。今は昼間の休憩で見知らぬ男とランチタイムの最中だが、別に食べたいから注文したのではない。

 ラブホの食事は結構安くておいしい、店でまずいコンビニ弁当を一人で食べるよりはイケメンの男と一緒に食べれば、食欲がなくても少しは食べる気持ちにもなろう。
「へえ~。そんな感じ? 僕の見て」
 本当かどうか分からない、たつやという出会い系で先ほどしりあった男が清雅にカレーの皿を見せる。ボクサーパンツに上半身は黒のポロシャツがよく似合う日に焼けた甘い目の顔は清雅のタイプだった。見た瞬間、画像と違う顔が出てきたら、その場で交渉決裂だ。顔がまずい男と一戦交えるつもりなど全くない。
「シメジなんて嫌いよ」
「じゃあ、僕が食べるということで、他に好きなものないの?」
 カレーを頬張りながらたつやは清雅に微笑みかける。メニューを指差した。
「じゃあ、抹茶パフェ。頼んでみよ」
 清雅は備え付けの電話を取り、短く注文を告げる。愛想もなければ、抑揚もないしわがれた女の声でハイとだけ返事があった。
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