第3話
文字数 986文字
楽しかったわ、ありがとうと言うと清雅は男に渡すではなく車のギアボックスに5000円札を三つ折りにして置いた。
「ありがとう、いいの?」
「まだ大学生じゃないの。私の方がきっと年上よ。楽しんでくれた? また呼び出してくれてもいいけど、夫がいるのよ。それでも良かったら」
「ええ? 結婚してたの?」
そういうことだよ、清雅は店の場所が分かるとまずいのでラオパレスのマンションのテラスに入るフリをした。スカイブルーのCR-Xは走り去った。
きっともう連絡はないだろうとなんとなく予想した。清雅は復讐・始めました、なんてねと思う。誰に、なにに対しての復讐なのか。頭の中は混沌としている。冷たい一陣の風が吹いてくれればありがたいのに……。
マンションのエントランスを一周してから、自動ドアの外へ出る。さて、早く店に帰らないと。ここから店までは歩いて二百メートルほどだろうか。途中のコンビニで、おにぎりを買う。
これで今月に入って3人目の男だったが、これも何か違う。清雅は探している。自分にぴったりの男を。それにしても暑い、体温を超えているのではないかと思われるが店の前でたつやの車を降りる訳にはいかない。夫の康平の白いバンが止まっていた。店の名前はアイリス・フローリスト、キューブのイラストは二人で決めた。夫は三十五歳だが、これもまた出会い系で知り合った。
清雅は本気で惚れた男に紙切れのように捨てられて、やけになり、康平と結婚した。親の代から続く花屋は特別繁盛していないが、固定客があるので赤字ではないし、持ち家もあったので苦労はなさそうだと思ったからだ。
それに、それにもまして、清雅の思う男だと感じるモノがあったから、体温が低く、ぴったりとはまったから。
なのに、それが最近全くご無沙汰で、結婚して一年もすると手すら触れない。自然と分かることだが、康平にまとわりつく空気が違うのである。女の勘とかいうやつ、なのだろうか。清雅は嫉妬などしないし、スマホをのぞき見したりというはしたないことも決してしない。馬鹿馬鹿しいし、自分の美学に反する。美しくないものは嫌いで、自分が汚れてしまうのは最低だと考えるから。知らなくていいことはこの世にはたくさんあるし、その方が幸せだと思うことの方が多い。あのときの悲しみや、失ってから知る愛情の深さなど、清雅は嫌というほど思い知らされていたからだ。
「ありがとう、いいの?」
「まだ大学生じゃないの。私の方がきっと年上よ。楽しんでくれた? また呼び出してくれてもいいけど、夫がいるのよ。それでも良かったら」
「ええ? 結婚してたの?」
そういうことだよ、清雅は店の場所が分かるとまずいのでラオパレスのマンションのテラスに入るフリをした。スカイブルーのCR-Xは走り去った。
きっともう連絡はないだろうとなんとなく予想した。清雅は復讐・始めました、なんてねと思う。誰に、なにに対しての復讐なのか。頭の中は混沌としている。冷たい一陣の風が吹いてくれればありがたいのに……。
マンションのエントランスを一周してから、自動ドアの外へ出る。さて、早く店に帰らないと。ここから店までは歩いて二百メートルほどだろうか。途中のコンビニで、おにぎりを買う。
これで今月に入って3人目の男だったが、これも何か違う。清雅は探している。自分にぴったりの男を。それにしても暑い、体温を超えているのではないかと思われるが店の前でたつやの車を降りる訳にはいかない。夫の康平の白いバンが止まっていた。店の名前はアイリス・フローリスト、キューブのイラストは二人で決めた。夫は三十五歳だが、これもまた出会い系で知り合った。
清雅は本気で惚れた男に紙切れのように捨てられて、やけになり、康平と結婚した。親の代から続く花屋は特別繁盛していないが、固定客があるので赤字ではないし、持ち家もあったので苦労はなさそうだと思ったからだ。
それに、それにもまして、清雅の思う男だと感じるモノがあったから、体温が低く、ぴったりとはまったから。
なのに、それが最近全くご無沙汰で、結婚して一年もすると手すら触れない。自然と分かることだが、康平にまとわりつく空気が違うのである。女の勘とかいうやつ、なのだろうか。清雅は嫉妬などしないし、スマホをのぞき見したりというはしたないことも決してしない。馬鹿馬鹿しいし、自分の美学に反する。美しくないものは嫌いで、自分が汚れてしまうのは最低だと考えるから。知らなくていいことはこの世にはたくさんあるし、その方が幸せだと思うことの方が多い。あのときの悲しみや、失ってから知る愛情の深さなど、清雅は嫌というほど思い知らされていたからだ。