4. 白々しくふてぶてしい早朝の鵺

文字数 1,005文字

 緑色の作業服の男を狙撃した不知火はアサルト・ライフルの始末を秋月に押し付け、階下へと走った。
 弾を十分に込めた拳銃を手に現場へと向かったが、事切れたシンと腰を抜かした鈴木以外に人が居る気配はなかった。
 鈴木は遅かれ早かれ殺されると思いながら、逃げ場のない解放された密室に閉じ込められた様に動けないままだった。
 不知火は、既に拳銃を失い無力化されている彼女を追撃する事はせず、応援の到着まで彼女を監視しながら、他の工作員(エス)が近づかぬ様に警戒し続けていた。

 一方の鬼怒川は小型船が港を離れた事を報告するとともに階下へと降り、泣き喚き、誰にともなく命乞いをする二人の女を物陰から監視し、不知火同様応援を待った。
 雪山国(ミナミ)工作員(エス)は手足を撃って動きを止めてはいたが、訓練された工作員(エス)故に油断は出来ない。しかし、事の他火力のあるアサルト・ライフルの効果は絶大で、片方の手足を失った状態での反撃が叶う様には見えなかった。

 残された秋月は鈴木の拳銃を雑巾で包み、二人のアサルト・ライフルを工具箱に偽装した携行ケースへと片付け、全てをコンテナに放り込んだ。
 そして、何事も無かった風を装い、管理室から緊急時の行き先である魚市場の事務所へと台車を押して歩いて行く。
 ――動作確認が終わり次第、点検を終わります。
 白々しく言って、内心、秋月は背後から近づくサイレンに安堵する。

 近づいたサイレンが止み、騒々しい足音が駆け付け、魚市場側にもその足音が入って来た頃、あたかも職務質問でもするかの様に近づいてきた“身内”に、秋月は“手帳”とは違う身分証を見せる。
 ――事情は、キヌガワさんかシラヌイさんに聞いて下さい。そこら辺に居ると思います。
 渋い顔をした警察官は首を傾げながらも、台車のコンテナに積まれた不自然な工具箱に事情を察知してはいる様だった。

 次々とやってくる警察車両と、無数の警察官。
 制服姿の警察官と共にその様子を眺めながら、秋月は二度目の安堵を覚えた。
 もう、事件は隠し通せない、と。
 ――こんな騒ぎにするなら、私を連れて来なくても良かったでしょうに……。
 魚市場の片隅で、アサルト・ライフルと証拠品の拳銃を隠したコンテナにもたれかかりながら、ふてぶてしく二人を待つその姿に、制服姿の警察官は思った。
 この女職員が此処に居る理由はこれか、と。
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