空を飛ぶ蜘蛛

文字数 1,266文字

おい、なんだあれは?

空から何かの群れが飛んで来る。

鳥か?

魔獣?

いや、虫か?

敵軍も最初は

虫か鳥の群れだと思っていたが

虫みたいにみえるが……

蜘蛛、か?

近づくに連れ、

それが見たこともない奇妙なものだと気づく。


胴体に足のようなものが四本、

その上では何かが終始回転して空を飛んでいる。


まるで空飛ぶ蜘蛛のようにも見える。

数は数百ぐらいはあろうか、

みな一様に何かをぶら下げている。

撃ち落とせっ!
弓や魔法を使えっ!

これを撃ち落そうと

弓矢を放ち、魔法を使うと


ぶら下がっている袋が破け、

中から液体が飛び散り


その液体が気体となって周囲に広がった。

急に苦しくなって来たぞっ……
どうなってんだ?

呪いか? こりゃぁ

するとその付近にいた者達がみな

何やら苦しみはじめる。


今回の作戦にはドローンの編隊を用意し


それにあるものをぶら下げさせた

勇者は遠方から双眼鏡で

敵の様子を伺っている。

ぶら下がっている袋の中にある

揮発性の液体が外気に触れると

通常温度で気体となり


神経ガスとなって

周辺にまき散らされる

人間世界ではそれを

化学兵器と呼ぶ

人間世界の戦争では

条約で禁止されているような代物だが


生憎(あいにく)人間と魔王軍の戦いに条約などはないからな

敵が人間を皆殺しにすると言うのならば


こちらも手段を選ばず、

敵を皆殺しにする覚悟で望むまでだ

そう考えると

戦争は殺し合いでありながら


非人道的な兵器の使用を禁止し

捕虜の扱いや宣戦布告など

条約という名のルールがあり

むしろそちらの方が

不思議なことのように思える


これもやはり少年少女魔道士団に

持続性がある毒性アップの魔法を掛けさせ

今回は袋詰めと

ドローンにぶら下げるまで


すべての準備をやらせている

お前ら、気をつけろよ、

それ触れたら神経やられるからな

えっ!
え?
エェッ!?

勇者の言葉に

テトをはじめとする少年少女達は、

またも目を見開いて驚いていた。

えぇっ!

そんな危ないもの

子供の僕らが扱って大丈夫なんですか!?

そりゃぁ、まぁ、

本当はダメだろうな


何度も聞いて来るけど

子供に化学兵器を扱わせるとは

まさに外道勇者。

まぁ、お前らには

ヒーリングがあるから、

大丈夫だろ、平気、平気


まぁ、こいつらにヒーリングないのは

本当に助かるんだわ、こっちとしては

化学兵器の神経ガスに苦しむ

魔族、魔物を見て、しみじみ思う

今回の敵軍に

回復担当と思われる者は

誰も見当たらない

そもそも回復魔法を使う魔族が存在しないのだろうか

回復魔法は神聖なイメージだから

使えないのはわかるが


とは言え回復手段がないのは

どうなんだろうな

勇者は好きに能力を

つくれるようになった時

まず真っ先に再生能力をつけた


それぐらいに重視している

魔王軍の場合は

個々の再生能力なり

根性なりで頑張ってくれよと、

そういうことなのか

とは言え、この世界の生き物に、化学兵器がどこまで効くかは全くの未知数で


俺もそれ程余裕しゃくしゃくという訳でもない

セスナ機を空に飛ばし


農薬をはじめとする

ありとあらゆる劇薬、毒物を散布させる

以前も行ったように


PM2.5や花粉までも

転移強奪で撒き散らす

魔王軍はこの世界にはない筈の

化学薬品まみれになっていた

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