第8話 美味しい物は人を幸せにする

文字数 2,791文字

イブは、自分の服や下着が入った紙袋を肩から下げて、街を歩いていた。
なんだかこう、大きなショップバッグを肩からかけていると、オシャレな人になった気分だった。
外国の人が沢山のショップバッグを持ってあるいているイメージが、イブの頭の中にある。
白や赤をメインに、お店があるこのエリアは、少し住宅街とは違い、建物が賑やかな色合いだった。
それでもイチゴを乗せたような屋根で、外装は白い生クリームである事が多く、色々なデザインのストロベリーショートケーキが沢山並んでいるようだった。
たまにピンク色の場所もあったり、多少、白と赤ではない色合いの所もあるが、そこは雑貨屋だったり、先程とは別の服屋だったりするようだ。
今目指しているスーパーは、他の店がポップな作りなのに対し、少しシンプルらしい。
クララおばあちゃんの話では、シンプルなストロベリーケーキの見た目、という事らしく、それはそれで、また、どんな店か気になった。
それと同時に同じくベリー系の名称の街があったような気がしたのを、思い出し、思い切って聞いてみる事にした。
「あの、おばあちゃん」
「はい?どうかした?」
「こことは別の街で、もう一個ベリー系の街?の名称があった気がするんですけど…」
「あぁ、ラズベリーケーキ街ね、あるわよ、そっちは確かに似ている部分もあるけど、ラズベリーケーキ街はもっとこっちより原色や派手な色合いよ、ラズベリーの赤や、ブルーベリーの紫色の街並みなのよ、確かに紛らわしい部分もあるわね。でも、こっちは赤と白をメインに使うから、たまにポップな色合いのお店を見ると、目立って良いわよね」
「あぁ、なるほど、色味が若干違うんですね、でも確かに、お店は少しポップで良いかも、心がウキウキするし」
「そうね、お買い物は楽しいものね、ウキウキ、ワクワクするようなお店の外装は、見るだけで楽しそうよね」
「はい」
「ふふっ、この国にいる間、色んな街にお出かけしてみましょ?」
「それ、楽しそう!」
「女同士、二人で楽しみましょうね♪」
「はい♪」
この街の名称、「ストロベリーケーキ街」と聞き、街並みを見れば、「イチゴのショートケーキ」が立ち並ぶイメージだが、所々、イチゴをメインに多少ベリー系の果物が乗っているような建物は、いわゆるベリーケーキをイメージしてしまうが、そうではなく、大雑把に「イチゴを使ったケーキ」というコンセプトらしい。
それで、こことは別の街と似てしまうが、ラズベリーケーキ街の方は、イチゴを使わず、イチゴ以外のベリーを使ったケーキのような外装で、違いを現している。
白と赤のショートケーキカラーがメインだが、たまにピンクの外装があったり、少し別のベリーの果実を使っているのは、お店である事を意味するアクセントであるらしく、ラズベリーケーキ街は、こことの違いを出す為に、より赤や紫といった外装のようだ。
白とイチゴは使わず、店の方のも、ストロベリーケーキ街と似てしまう部分もあるかも知れないが、そこはまた、別の工夫されているという事だった。
クララおばあちゃんの説明によって、理解出来たイブは、この街と少し似るラズベリーケーキ街の方が、どんな感じなのか、気になった。
こっちより派手なイメージになってしまっているが、確かにこの国の街は、チーズケーキだったり、洋ナシタルトだったり、パッと見の色合いが似ている所がまだある、モンブランやチョコレートもあったはずだ。
そう考えると、色味だけで違いを見分けるというのは、難しそうだった。
ちなみに、街を色で区別する場合は、洋ナシタルト街はオレンジ、フルーツタルト街は黄緑、ラズベリーケーキ街は赤紫、ストロベリーケーキ街はピンク、モンブランケーキ街はベージュ、チョコレートケーキ街は茶色、チーズケーキ街は黄色となっている。
しかし、国全体、平和で争いがほとんどない為に、街が多少似ているとかで争いは起きない。
むしろ、美味しそうなケーキが沢山並んでいるような街並みの為、見ているだけで、幸せな気分になれるような所である。
色味もデザインも名称も、多少似ていても気にしない住人がほとんどである。
イブもこの街の外観に虜にされ、今は街を歩いているだけでショートケーキやらイチゴを沢山使ったケーキ、イチゴ以外のベリーも添えられたポップな色合いのケーキに囲まれている気分だった。
お目当てのスーパーが見えた時、イブはクリスマスケーキを思い出した。
シンプルだったはずなのに、なんだかその見た目にビックリしてしまった。
近付くとただ、色々な食品が乗っている飾りがあるだけで、一目見てスーパーなんだと分かった。
イブは、小さい頃に見たクリスマスケーキのカタログに乗っていた、イチゴが乗り白い生クリームのホールケーキとそのホールケーキの周りを覆うキャラものの絵が描いてあるビニールか、クリスマスの絵柄のビニールが巻かれている物を思い出していた。
確かにお店としては赤い屋根に白い壁でシンプルだが、あのケーキの外側に巻かれた透明なビニールがカラフルになっている、という風にしか見れなくなってしまった。
イブはあのビニールをとった後、必ず付いたクリームをフォークで綺麗にとって、そこを食べてからケーキを食べ始める子供で、今も癖は残っている。
…外ではやらないようにしているが。
店に入ると、中は普通のスーパーだった。
それでもなんだか、ポップでキュートなイメージは壊されていない。
モフモフが食材を買いに、店内をうろうろしているのを見るだけで、幸せに満ち溢れている。
イブが住んでいた世界と、売られているものがたいして変わらないようだ。
それでもイブでさえ見た事のない物をみると、何だか外国にいる感がある。
外国どころか、異世界なのだが。
「今日は何にしようかしら?」
と、クララおばあちゃんは、食材を見ながら、つぶやいた。
「イブは何が食べたい?どんなものが好きなのかしら」
「えっと、私は…」
現実世界の事では、多少モヤがかかる場合があるが、今回はとくにモヤはかからず、イブは好物を思い出した。
「シチュー」
「シチューが好きなのね、じゃあ今日はクリームシチューにしようかしら、それともビーフシチュー?」
「白い…クリームシチューが良いです」
「分かったわ、じゃあ、クリームシチューにしましょうね」
「はい」
二人で材料をカゴに入れていく。
母親のスーパーの買い物に一緒についてきた時の事が頭に浮かんだ。
母親の顔などは曖昧だが、イブの見ていた景色は小さい頃のそのままだった。
懐かしいと思う反面、寂しさも込み上げてきた。
幼い時に戻る事は出来ないが、今は異世界での暮らしが穏やか過ぎて、まだ来たばかりである事を忘れてしまいそうだと、イブは思った。
いつか帰る事は出来ても、また来ることは出来ないのだろうか…。
なんだか、それも幼い時に戻れない感覚と似ていて、少々寂しい気持ちになった。
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