第9話 のびるのびるの落とし穴

文字数 559文字

「全部元どおりにとは言わない。最初の1日、いや、2日までの分はそのままでいいから」
「そうそう、私の髪は24センチ長くなって」
「俺の身長はプラス12センチ。カナちゃんより6センチ高い、夢の170超え」
 随分と現金なお願いだな、と思いつつ、俺は慌てて言葉を継いだ。
「あ、俺は、全部元に戻してくれて構わないぞ。というか、戻して!」

 さあ早く、さあさあ、と3人に詰め寄られて、神様は、うう、と呻き、それから、
「我、のびるのびるの神ぞ…」
 と、視線を逸らしながら、やや歯切れ悪くそう言った。

「んなこたあ、わかってる。だから早く元に…」
 言いかけると、少女がハッとした顔をして言った。
「待って! もしかしてこいつ、伸ばせるけど戻したり伸びるの止めたりはできないってことなんじゃ…?」
「「えっ!!?」」
 今度は少年と俺の声が重なり、顔を見合わせ、2人してさあっと青ざめた。

「嘘だろ? 止められないのか?」
「そんなはずはないよな? な? 嘘だって言ってくれ!!」
 必死の形相で詰め寄る俺たちに“神様“はさらに目を泳がせ、だらだらと冷や汗を流し出す。

「マジか…」
「止められないのか…」
 絶望が3人の間に流れ始める。とそのとき。

「こらぁぁあっ! ここにいたのか!!」
 ものすごい怒号と光と大音響がして、神様も含めその場の全員が首を竦めた。
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