第二話 如雨露

文字数 884文字

 未来が視えない。

 そう言う病気があるのは知っていたが、実際に本人に会うのは初めてだった。と言うより、私が視ていた未来には、視えない人と出会う景色はなかった。本来は出会わない人が今目の前にいるのである。だからこそ、クラスのみんなは驚いてしまったのだ。

 だからと言って、これは決して有り得ない……ことでもない。

 転ぶと分かっていて、杖を用意しない人がどれくらいいるでしょうか。たとえ未来が視えていたって、転んだら痛いものは痛いのです。

 私たちはみんな、自分の未来を視ては、それを歓迎したり避けようとしたりして様々な行動を起こす。おかげで私たちが視えている未来はころころ変わる。テレビのチャンネルを高速でザッピングしているような、インターネットのサイトを数秒ごとに切り替えていくような、要するにそんな感じである。視えている未来が

することもある。お父さんやお母さんは、歳を取れば視える景色も落ち着いてくるよ、と言って笑っているが、正直私はまだ慣れなかった。

「だから皆さん……」
 先生が教室を見渡して言った。
「柊木さんと仲良くしてくださいね」
「ハァ〜イ」

 ……実際はそんな気の抜けた返事ではなかったが、私たちは比較的好意的に、その転校生を受け入れた。彼女が、数週間くらいはぎこちなかったものの、それからは皆と打ち解ける……と言う未来が全員に視えていたからである。

 明日佳ちゃんは私の隣の席になった。教室の後ろの方の、壁際の席である。半分くらい開け放たれた窓から、昇ったばかりの朝陽が射し込んでキラキラと輝いていた。

「よろしくね」

 私はにっこりと笑みを浮かべ明日佳ちゃんに挨拶した。明日佳ちゃんは私を一瞥し、小さくお辞儀しただけで、さっさと窓の方を向いてしまった。私は特に気にしなかった。その時点で、後々、彼女と仲良くなる未来が視えていたからである。もちろんその間に、一緒に下校するようになったり、図書室で好きな本について語り合ったり、中庭で一本の花を育てたり……そして最後に私と明日佳ちゃんが些細なことで喧嘩して、そのままぎこちない感じで卒業してしまう、その最期まで。
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