第四夜

文字数 2,482文字

やあ、みなさん

またお会いしましたね

――呪いのWeb小説へようこそ
それでは早速『ノベル民』の紹介にまいりましょう

本日ご紹介するのは

東京近郊に住む会社員、五十代男性

Web小説民は十代、二十代が大半だというのに


これまた随分と希少種を選んでしまったものです

東京にある会社に

毎日一時間以上かけて通ってたんです

結婚もしていましたし、

妻と十代の子供が三人


家族でそれなりに幸せな生活を送っていました

しかしながら子供達が、私立大学やら私立高校やらに行くようになり


お金が掛かる真っ最中


自身のお小遣いも減らされ


趣味にお金を使うことも出来ずに

飲み会などにもたまにしか行けない


そんな日々を送っていたんです

そこで見つけた

新しい趣味がWeb小説でした

お金も全く掛からないし

暇潰し的な趣味としては最適

最初こそ自分に合った作品を探して回る

いわゆる読み専でしたが


昔、まだ夢見る若者だった頃、広告のコピーライターを目指していたこともあり


少しだけ文章を書くことには自信がありました

Web小説を読んでいく内に


――これぐらいなら自分でも書けるのではないか?


そんな風に思いはじめます

そうして読み専から書き手へと転身をはかりました

これ、意外に

結構あるんじゃないかと思うんですよ

Web小説って、

参入の敷居が極端に低く見えるというか


自分と同じような素人の人達が

これぐらいやっているのだから


自分もちょっと頑張れば出来るんじゃないか?


そう思ってはじめる人多いんじゃないですかね

気合を入れて、本人渾身の処女作を

サイトに投稿したんですが


びっくりするぐらいに全く反応がなく

投稿した日はわずか2PVがあっただけ

もちろん、レビューやポイントはおろか

ブックマークすらもなく、

感想やコメントすらもない、

全くの無風状態

えげつないぐらいに何も起こらないので

もしかして投稿されていないのではないかと疑ったぐらいでした


あまりの反応の無さに心折れて、

結局、初投稿作品は削除してしまいます

それから、どうすれば

自分が書いた作品が読まれるのか


改めてネットで調べたり、

自分なりにいろいろと試し、

経験を積んで行きました


現在流行中の作品傾向、

目に付きやすい投稿の時間帯、

積極的に他の人の作品に

感想やコメントを書いて回って、

相手からも評価してもらうなどなど


ありとあらゆることを試しました

それでようやく少しは

作品を見てもらえるようになりましたが


それでも相変わらず底辺中の底辺

もともと夢中になると

とことんハマるタイプでしたから


Web小説への執着は

日に日に増して行くばかり

通勤の行き帰りに、満員電車の中で

必死にスマホで小説を書き


職場で仕事の空き時間にも

こっそり小説の続きを書く

どんな時も頭の中は常に


小説の作品構想やら

シーンの描写やらセリフが、

ぐるぐると駆け巡り

過ぎっている、そんな状態

そして、

PV数が気になって気になって仕方ない私は


いつの間にか、スマホを触る度に

まずは小説サイトに投稿した

自分の作品のPV数をチェックする


そんな癖までついてしまいます

夜中、トイレに目が醒めた時は

枕元に置いてあるスマホでサイトを見て

自分の小説のPV数やポイントが

増えていないかを確認

もちろん朝目覚めた時も同様に

まず一番に枕元のスマホを手にし

Web小説サイトの数字を確認する毎日

主も以前そうだったのですが


寝起きすぐWeb小説をチェックするのは

かなりメンタル侵食されてる証ですよね


生活や心の中心にまでWeb小説が

食い込んで来ているということですから

主はここでもやはり

そんな自分がコワくなりましたね


これではまるで依存性ではないかと

サイトの告知をすれば

効果があるかもしれないと思い

twitterもはじめたんですが

これもどちらかと言えば裏目で


いつものPV数チェックに加えて

フォロワー数チェックの

ルーティンが追加されただけという有様

やれブックマークが外されただの

フォロワーにリムーブされただの

そんなことで真剣に落ち込んでみたり

ストレスを溜めたりしていました

数字とかがついつい

気になって仕方がないという人には

まぁ、ありがちな罠なんですかね

一日の大半を

Web小説のことを考えながら過ごす日々が続き……

どんどんエスカレートして行って


ついには睡眠時間を著しく削ってまで

Web小説を書き続けるように……

当然ながら毎日寝不足で


日中は頭に霞がかかったような状態


本来はメインであるはずの仕事が

片手間になってしまい……

そんな生活を続けていて

体力がなくなり……

体が弱っているところに

運悪く流行の新型ウイルスに感染

高齢者とまではいかないまでも高めの年齢と、弱っていた体が災いして


感染から二週間が経過した本日

残念なことにお亡くなりになられたそうです


主に限らず

同じような経験をしたことがある方は

結構多いんじゃないですかね

まぁ個人的見解にはなりますが、

こういうのも一種の依存症だと思うのですよ


結局、人間、何かに依存しなくては

生きていけない体質なのではないでしょうかね

神様や宗教に依存するか

パチンコなどのギャンブルに依存するか

酒やクスリに依存するか

それともお金なのか


依存する対象が違うだけで

やってることはみんな同じで

何ら変わりはないのではないかと

まぁ、このおっさんの場合

趣味依存症と言いますか

Web小説依存症とでも言いますか

プロの小説家、ラノベ作家になるために


収入を得るための

他の仕事をすることを良しとせず

多くのモノを投げ打って、切り捨てて


生活のほぼすべての時間を掛け

全身全霊を注ぎ込んで

小説を書いている人達がいる一方で


学生さんや社会人でありながら

趣味で小説を書いている多くの人達もいて

そういうのがWeb小説の

良いところではあるんでしょうけど

そういう人達は趣味として

どう距離をとって付き合っていけばいいのか


このおっさんのようにのめり込み過ぎて

どちらが本業でどちらが趣味か、分からないような生活になってしまったり


そういう人はここにも多いんでしょうかね

まぁでも、

ご本人には気の毒ではありますが


若者達の遊び場に参加して

孤軍奮闘するおっさんという


なかなか興味深い事例ではありましたね

それではみなさん、

ご縁があれば、またお会いしましょう

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