第2話

文字数 909文字

でもな、世界の流れについて行けないことも、ものすごく価値があるということに気付いた。
何百年前と変わらない、とか言って観光客が押し寄せる村がある。
変わらない、というけれど、あれは変われなかった、
ということなんじゃないか、と気が付いてしまった。
それがいつの間にか個性になり、商品として重宝される。
分かりやすいのが世界遺産だ。欧米の発想だよな。
それ以外の全ては自分たちの都合のいいものに作り替え、儲けのネタにしているくせにな。
で、結局その世界遺産も金儲けの材料さ。

だからな、わざとそういう価値を持たせようと思った訳だ。
わざとガラパゴスになるんだよ。
平成の中ごろから、この国の勢いが落ちていったことはさすがに知っているよな?
そこから思い出してみろ。全て、とは言わないまでもかなりのところを操作したのさ。

働き方改革とかぶち上げてもな、早く帰ったり休暇を取る奴はいじめる。
ハンコなくせと言っておきながら、書類のハンコ欄は消させない。
アクティブラーンニング? 入試はペーパー一発勝負のままだろ?
君の英語が下手なもの、きっとこのせいさ。
レジ袋有料にしたって、個食・中食ならプラの消費量は増えるだろ?
ワクチンだって、そうさ。その気になれば、デマだって流すことができるんだ。
男女平等? そんなことをやったら周りと同じじゃないか!

結局変わらないように仕向けるのが、俺たちの仕事だった。
これが今に繋がるんだよ。二十世紀を続けた唯一の国としてね。
食料やエネルギー源を自給できないというけどな、
唯一の存在を守れ、ということになれば連中はがらりと態度を変えて
全面供給になっただろ? そんなもんなんだよ。
もちろんこれは賭けだったけどな。俺たちは、賭けに勝ったんだよ!

げほっ。うほっ。
ちょっと興奮しすぎたようだ。

これが俺の遺言だ。
何? 誰にその仕事を引き継いだか?
それは言える訳がないだろう。ただな、俺のような老いぼれだけじゃないぞ、この組織は。

ああ、すっきりしたよ。
これで俺も向こうに行けるな。
先輩方が待っているぞ。きっと褒めてもらえるよな。


どう記事にするかは、任せた。
世界遺産になった日本という立場を、壊すかどうかは、君にかかっているぞ……。



[了]
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