第2話 市場とメアリおばさん

文字数 1,113文字

 ユーリは不思議そうな顔で俺に本当かと聞いて、そう言うのならと市場までついてきた。

 すっかり夕方になった市場には、夕飯を買いに来る買い物客で賑わっていた。

 少ししなびたキャベツ。

 みずみずしさはないし、いびつな形をしているピーマン。

 全て町だけで生産しているため目新しさはない。

 八百屋はにこにことこちらに手を振った。何故そうしてくれるのか分からないが、いつも俺に手を振ってくれて今日は何だか少し寂しそうだ。

 西日であかあかと光るリンゴ。

 青白くもきれいなナシ。

 果物を売る女は、大幅な値引きをして店を閉めようとしていた。

 干し物屋は干しブドウが美味しい。干しブドウがてらてらと光沢を放っている。

 今日は店主の方から俺に声をかけてくれた。

「コリーじゃないか。またメアリおばさんのお使いか?」

「違うよ。おばさんは自分で買いに来てるはずなんだけど。おばさん見てない?」

「いいや、おばさんなんて滅多に見ないからな。あの人頑固だからこっちも関わりたくねえ」

 俺はほんの少し心外な気がして抗議した。

「メアリおばさんは確かに考え方が凝り固まってるところもあるけど、根は優しい人だよ」

 店主は肩をすくめてどうだかなぁとぼやいた。

「何かお前さん良いことでもあったのか?」

 良いことがあったように見えたのだろうか。至って平然と会話しているつもりなのだが。それよりメアリおばさんの居場所を突き止めなければ。

「ないけど。おばさんどこに行ったのかなあ」

 店主は、隣の豚肉をさばいている肉屋に俺の質問をしてくれた。肉屋の女将はああそれならと角の通りを指差して質屋の方に行ったよと言った。

 質屋に着くとすらりと細長いおばさんと呼ぶには失礼に当たるほど、おしとやかで母親ぐらいの年齢に見えるメアリおばさんがいた。自分の宝石を売ってお金に変えているようだ。

 俺を見ると少し遠慮気味に今受け取ったばかりの金貨を握りしめた。店を出てからそっと俺に告げた。

「ユーリ君のいるところでちょっと見苦しかったわね。でもせっかくだし、うちで晩ごはん食べて行く? さっきパン屋さんで聞いたんだけど今夜は流れ星が降るそうよ」

 ユーリはメアリおばさんの話を聞いているのかよく分からない呆けた顔をしている。いつもなら真っ先に流れ星に感動するのに。待てよ、流れ星は昨日じゃなくて今夜なのか? 

 ユーリはやっと朱色から群青色に変えた空を見上げてほくそ笑んだ。

「そうだった。今夜はペルセウス座流星群が見られる。誘うつもりだったんだ」

「やっぱり詳しいんだな」

「年上舐めるな」にんまりとしてユーリは走り出した。俺の家まで競争か。メアリおばさんは構わず先に行ってらっしゃいの意味をこめて頷いた。
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