第6話 あれは流れ星何かじゃない

文字数 774文字

 草原を越え、七年間交易のない隣町アーソーンに助けを求めるべく駆け込んだ。黒塗りの家々が近づくにつれ耐え難い焦げた臭いがした。町の入口が見えたとたん足がすくんだ。

 本能がここから先に行くなと告げていて二人して座り込んでしまった。ユーリもか。

 空気が変わった。口の中が唾液でいっぱいになり泥のような舌触りと鉛のような味がする。見えない境界線でも引かれているかのように前に進めないばかりか、一度足を踏み入れたら這ってでも引き返すことはままならない。全身の筋肉がこわばってわなわな震える。

 ユーリは口を開いて俺に何かを伝えようとしたが上手く発音できていない。俺も取り返しのつかないことをしてしまったと告げたいが寒気と悪寒で舌が震えている。

 同じ日付をループしているだけではなかった。俺たちの町ウォーデンは、見えない壁で覆われている。外にも出られないんだ。足の感覚がなくなってきて座り込んだまま日が落ちた。

 ユーリが泣きそうなしかめっ面で必死で俺に唇を読めと促す。唇の動きだけで言葉なんか分かるわけない。お互いに震えているのだ、まるで氷点下の中にいるように全身に力が入らないのに。

「っか」

 ユーリの唇はここは駄目だと言っているように見えた。そんなことは言わなくても分かる。ユーリは首を振って俺の目と鼻の先でゆっくり説明する。

「っこ」

 ここにいたら駄目だ。

 そんなのは分かりきっているというのに!

 ユーリの頭上の奥から流れ星が見え始めた。その一つが草原に向かって落ちてくる。ここももうお終いだ。ユーリはまた首を振って懇願するように俺を見た。

「っあれは違う」

 ユーリが逆光で真っ黒になる。眩しい閃光と熱で最後まで聞き取れない。

「っあれは流れ星何かじゃない」

 ユーリの涙は熱で蒸発し悲鳴も残さなかった。

 俺とユーリは熱で焼かれ、四肢を投げ出して無残に砕け散った。
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