第1話 とってもへんなパーティ
文字数 2,621文字
今日はジェフリーの誕生日です。でも、パーティはなさそうです。友だちはみんな学校に上がってしまっていますし、なにせ大叔母ジェインが家に来ているのです。ジェインはちょっとの騒音も我慢できないタイプの人ですから、ジェフリーはねずみみたいに静かにしていなければなりません。もちろんニッパーも、ひと声だって吠えることは許されません。
ニッパーは明るくて元気いっぱいのいぬです。思いやりのあるいぬで、ジェフリーが転んですりむいたときなんて、
「自分のせいだよ、気をつけないと!」
こんな嫌味ったらしいことは絶対に言わず、ただ自分まで痛そうな悲しい顔をします。晩ごはんで好き嫌いをしても、うなったりしません。ジェフリーとは大の仲良しなのです。
その日のお昼も、ジェフリーとニッパーは一緒にいました。お母さんは朝から二階の寝室に引きこもっています。
「なんだか寒気がするのよ」
大叔母ジェインがそう訴えるので、つきっきりで看病してあげていました。手持ちぶさたのふたりはしばらく末っ子の赤んぼと遊んでいましたが、
「赤ちゃんはおやすみの時間ですよ」
乳母さんに追い出されてしまって、結局ふたりきりでおやつを食べることになりました。
おいしいお茶と、ピンク色のアイスクリームつきプラムケーキと、星の型をした砂糖菓子がちりばめられた甘いビスケットがあります。でもなんだか楽しくありません。ジェフリーは暖炉の前のカーペットでごろごろして、くるまったりしていました。そのようすを見てニッパーが、かすかに吠えて注意を引いて、ささやきます。
「こんなにおいしいおやつ、ぼくたちだけで食べちゃうのはもったいないね。ご近所のぼくの友だちをつれてくるからさ、みんなでわけあって、きみの誕生日パーティをしようよ」「いいね!」
ジェフリーは大賛成です(ニッパーがしゃべったって驚きはしません、いつもそうやって話していますからね)。するとニッパーは駆け出していって、数秒もしないうちに数えきれないほどのいぬをつれて戻ってきました。
みんなジェフリーのまわりに集まり、冷えた鼻と鼻を暖炉の火に暖まったその手に押し当てては口々にしゃべります。たとえば茶色い毛並みくるくるのレトリバーが、
「やあ、こいつはどうもありきたりの顔をした子だな。おれの昔なじみに、こいつの倍くらい整った顔つきの子がいるんだけど──」
しっぽをニッパーに噛まれて、それきり黙りました。
「お誕生日おめでとう、今年もどうぞすこやかに」
ジェフリーにお手をして言ったのは、りりしい顔立ちのコリーです。首まわりはフリルのように白く華やかにモフモフとしています。そのそばでふとっちょのパグが、まん丸の顔に両目を輝かせながらクンクンとビスケットを嗅いでいます。
「ほら、お行儀よくなさい」
黒のマルチーズが品よくたしなめますが、かくいう自分もビスケットから目を離しません。
「おいしそうなビスケットですこと。見ているだけで癒されますわ。わたくし、ちょっと精神的に疲れていますの!」
憂鬱そうにつぶやいたかたわらに、子いぬのダックスフントがちょこんと座ってキュウンとのどを鳴らしました。
「ぼく、おちゃをのんでたんだ。もっとのみたかったなあ」
ジェフリーは全員にビスケットをふるまいました。ニッパーが止めなかったらプラムケーキも丸ごとあげてしまっていたでしょう。
「待って待って、それは賞品だよ! これからひとりずつおはなしをしてもらうんだ。その中で一番おもしろかった子に、このプラムケーキをあげることにしよう。ぼくが審査するからね!」
あちこちから不満の声があがります。でもニッパーはめげません。
「ここはぼくのうち、このパーティの主催者はぼくだ。いやなら帰ってくれてもいいんだよ!」
みんな静かになりました。すると黒のマルチーズが、暖炉のそばの暖かいところへ優雅に歩いていって、そこで話し始めました。ものほしそうなまなざしをプラムケーキに注ぎながら──
「わたくし、ヴァイオレッタと申します。三匹のねこと、緑色のオウム一羽と、愚かな女主人とその甥っ子二人と、暮らしています。
甥っ子たちがやって来るまでは幸せでした。女主人も物わかりよく、わたくしを大事に扱ってくれていました。オウムは事あるごとに『ブウン!』と驚かしてきましたが、そのたびしっぽを噛んでやっていましたら、叫んでこなくなりましたわ。ねこたちもよく気がつく子たちで、わたくしが最も好んでやまないクリームソースをわけてくれたり、人間用のおいしいものをたびたび盗ってきて、いえ、持ってきてくれたりしたものでした。
不満といえば、女主人がこのお鼻に涙をこぼしてくることくらいでした。おかしなことをするものです。あの人はわたくしを撫でるのが大好きなのですが、そのつどわたくしの顔に自分の顔を寄せてきて、
『ああ、さびしい。わたしがどれだけさびしいか、あなたにわかる?』
そうやって泣くんです。このわたくしがいるのにさびしいだなんて、ばかばかしい!
となりに住むいぬに事情を聞いてみました。このいぬはごく平凡な出なのですが、耳と鼻がよく利くんですの。いわく女主人は、ただ一人の身内である姉と仲たがいしてしまって、それが結婚してしまってから一度も会えていないんですって。だからって、わたくしのお鼻をしょっぱい水で濡らしていいわけありませんわ! これだけは我慢がなりませんでした。
それで、去年の冬のある午後でした。玄関に乱暴なノックがしたら、男の子が二人、転がりこんできましたの。
『ぼくらふたごなんだ!』
同時にぎゃあぎゃあわめいて、
『おばちゃんママの妹なんでしょ! うちの赤んぼがはしかにかかっちゃってさ! 治るまでおばちゃんちにいろって! ママが言ってた! よろしくって!』
本当に本当にうるさくて、頭がずきずき痛んだほどでした。なのに女主人ときたら、もう信じられませんわ、その子たちを抱きしめて泣き出して! いつもわたくしのお鼻を濡らすように、甥っ子たちの髪を濡らして、ばかな人!
その日から、甥っ子たちはうちにいるんです。わたくしはブラシもめったに当ててもらえなくなって、ごはんも粗末なものになりました。来週には赤んぼまでやってくるんだとか──!」
ここまで話すと、感極まったヴァイオレッタは悲痛な声で鳴きました。ジェフリーは残っていたビスケットのかけらをあげて、せいいっぱい慰めました。
ニッパーは明るくて元気いっぱいのいぬです。思いやりのあるいぬで、ジェフリーが転んですりむいたときなんて、
「自分のせいだよ、気をつけないと!」
こんな嫌味ったらしいことは絶対に言わず、ただ自分まで痛そうな悲しい顔をします。晩ごはんで好き嫌いをしても、うなったりしません。ジェフリーとは大の仲良しなのです。
その日のお昼も、ジェフリーとニッパーは一緒にいました。お母さんは朝から二階の寝室に引きこもっています。
「なんだか寒気がするのよ」
大叔母ジェインがそう訴えるので、つきっきりで看病してあげていました。手持ちぶさたのふたりはしばらく末っ子の赤んぼと遊んでいましたが、
「赤ちゃんはおやすみの時間ですよ」
乳母さんに追い出されてしまって、結局ふたりきりでおやつを食べることになりました。
おいしいお茶と、ピンク色のアイスクリームつきプラムケーキと、星の型をした砂糖菓子がちりばめられた甘いビスケットがあります。でもなんだか楽しくありません。ジェフリーは暖炉の前のカーペットでごろごろして、くるまったりしていました。そのようすを見てニッパーが、かすかに吠えて注意を引いて、ささやきます。
「こんなにおいしいおやつ、ぼくたちだけで食べちゃうのはもったいないね。ご近所のぼくの友だちをつれてくるからさ、みんなでわけあって、きみの誕生日パーティをしようよ」「いいね!」
ジェフリーは大賛成です(ニッパーがしゃべったって驚きはしません、いつもそうやって話していますからね)。するとニッパーは駆け出していって、数秒もしないうちに数えきれないほどのいぬをつれて戻ってきました。
みんなジェフリーのまわりに集まり、冷えた鼻と鼻を暖炉の火に暖まったその手に押し当てては口々にしゃべります。たとえば茶色い毛並みくるくるのレトリバーが、
「やあ、こいつはどうもありきたりの顔をした子だな。おれの昔なじみに、こいつの倍くらい整った顔つきの子がいるんだけど──」
しっぽをニッパーに噛まれて、それきり黙りました。
「お誕生日おめでとう、今年もどうぞすこやかに」
ジェフリーにお手をして言ったのは、りりしい顔立ちのコリーです。首まわりはフリルのように白く華やかにモフモフとしています。そのそばでふとっちょのパグが、まん丸の顔に両目を輝かせながらクンクンとビスケットを嗅いでいます。
「ほら、お行儀よくなさい」
黒のマルチーズが品よくたしなめますが、かくいう自分もビスケットから目を離しません。
「おいしそうなビスケットですこと。見ているだけで癒されますわ。わたくし、ちょっと精神的に疲れていますの!」
憂鬱そうにつぶやいたかたわらに、子いぬのダックスフントがちょこんと座ってキュウンとのどを鳴らしました。
「ぼく、おちゃをのんでたんだ。もっとのみたかったなあ」
ジェフリーは全員にビスケットをふるまいました。ニッパーが止めなかったらプラムケーキも丸ごとあげてしまっていたでしょう。
「待って待って、それは賞品だよ! これからひとりずつおはなしをしてもらうんだ。その中で一番おもしろかった子に、このプラムケーキをあげることにしよう。ぼくが審査するからね!」
あちこちから不満の声があがります。でもニッパーはめげません。
「ここはぼくのうち、このパーティの主催者はぼくだ。いやなら帰ってくれてもいいんだよ!」
みんな静かになりました。すると黒のマルチーズが、暖炉のそばの暖かいところへ優雅に歩いていって、そこで話し始めました。ものほしそうなまなざしをプラムケーキに注ぎながら──
「わたくし、ヴァイオレッタと申します。三匹のねこと、緑色のオウム一羽と、愚かな女主人とその甥っ子二人と、暮らしています。
甥っ子たちがやって来るまでは幸せでした。女主人も物わかりよく、わたくしを大事に扱ってくれていました。オウムは事あるごとに『ブウン!』と驚かしてきましたが、そのたびしっぽを噛んでやっていましたら、叫んでこなくなりましたわ。ねこたちもよく気がつく子たちで、わたくしが最も好んでやまないクリームソースをわけてくれたり、人間用のおいしいものをたびたび盗ってきて、いえ、持ってきてくれたりしたものでした。
不満といえば、女主人がこのお鼻に涙をこぼしてくることくらいでした。おかしなことをするものです。あの人はわたくしを撫でるのが大好きなのですが、そのつどわたくしの顔に自分の顔を寄せてきて、
『ああ、さびしい。わたしがどれだけさびしいか、あなたにわかる?』
そうやって泣くんです。このわたくしがいるのにさびしいだなんて、ばかばかしい!
となりに住むいぬに事情を聞いてみました。このいぬはごく平凡な出なのですが、耳と鼻がよく利くんですの。いわく女主人は、ただ一人の身内である姉と仲たがいしてしまって、それが結婚してしまってから一度も会えていないんですって。だからって、わたくしのお鼻をしょっぱい水で濡らしていいわけありませんわ! これだけは我慢がなりませんでした。
それで、去年の冬のある午後でした。玄関に乱暴なノックがしたら、男の子が二人、転がりこんできましたの。
『ぼくらふたごなんだ!』
同時にぎゃあぎゃあわめいて、
『おばちゃんママの妹なんでしょ! うちの赤んぼがはしかにかかっちゃってさ! 治るまでおばちゃんちにいろって! ママが言ってた! よろしくって!』
本当に本当にうるさくて、頭がずきずき痛んだほどでした。なのに女主人ときたら、もう信じられませんわ、その子たちを抱きしめて泣き出して! いつもわたくしのお鼻を濡らすように、甥っ子たちの髪を濡らして、ばかな人!
その日から、甥っ子たちはうちにいるんです。わたくしはブラシもめったに当ててもらえなくなって、ごはんも粗末なものになりました。来週には赤んぼまでやってくるんだとか──!」
ここまで話すと、感極まったヴァイオレッタは悲痛な声で鳴きました。ジェフリーは残っていたビスケットのかけらをあげて、せいいっぱい慰めました。