第2話 6~9「失った」という非日常は「変化」を残して3日で消える

文字数 1,912文字

6
家にこもる血の臭いが気にならなくなったので、とりあえず不便な要素を潰すことにした。

宇宙人が持つ力について脳内でまとめながら掃除をする。
一言で言ってしまえば「現実の改変」だ。
まだ情報が足りないが、はたから見る分にはそう見える。

恐らく始祖となるものが「不完全な虚無」であったために「存在することが当たり前」な人間に興味を持ち地球にやって来たのだろう。

「ねえ」

「なあに?私」

「不便だし、地球人になりたいんでしょ」
「名前...付けない?」

目は光らないが喜びを強く感じる表情をしている。

「うん。うん!どんなのがいいかな?」

少女は周囲をきょろきょろと見回して落ちていた肝臓を拾う。

「これ!つるつるしてて地球人の体を助けてるこれ!」

「それは肝臓」

「私の名前は肝臓!」

「ううん。その名前は不便だよ」

「そうなの?」

「人に付けるのに向いている言葉があるの」

「知ってる!勉強したんだ。由来させるんだよね?」

少し考える。こういったのは簡単にすませても問題ない。

「...千歳」
「あなたは宇宙そのもので、宇宙はとても長生きでしょ?」
「本当は千年以上生きているだろうけど、あなたの名前は千歳」

「ちとせ...。名前!うれしい!」

一体何をどこまで知っていて、一人で何ができるのかは見当もつかない。
だから一緒にいてみようと思った。

不思議と死ぬ気が失せていた。

7
早朝から騒がしかったが近所迷惑になってないと良いなと思いつつ肉片を集めていく。
千歳はタンスから両親の服を取ってどれが良く血を吸うか比べている。

「今日が燃えるごみの日で良かった。」

「ごみ!知ってるよ!」

「うん、一緒に捨てに行こう」
「あと今日は学校があるんだ」

「それもついていっていい?」

置いていく?
こんな爆弾みたいなのから目を離すなら、学校に迷惑をかけた方が良い。

「学校に行ってみないとどうなるかわからないよ」
「それでもいい?」

「いいよ!」

8
学校には友達と言っていいのかわからない関係性の人がいる。
ああ、知り合いと言うべきか。

家族関係が荒れると身内があんまり信用できなくなる場合がある。
そしてさらに人間を信用できなくなったり、過度に恐れたりするのだ。

「ねえねえ。千歳」

「なあに?神崎さん」

「もしも3人の知っている人から冷たくされたらどう思う?」

「えーと、自分から歩み寄るなら性格を見直すんだよね?」
「原因を外とするなら他の人と交友関係を築くよ」

「そうだね。でももしその3人が、出会った全ての人だったら?」

「きっと根暗になるよ。人間って自分の経験からしか動けないもん」
「知識は知識だけじゃ使い物にならないもんね」

千歳はにっこりと笑っている。
洋服は私のしかなかったからぶかぶかになると思ってたけど、体の一部に作り替えたらしい。
サイズはぴったりで、うれしいときに風が無くともひらひら揺れる。

学校が近くなったとき校門に先生が立っていた。
今日は早起きしてしまったからゆっくり行っても早く着く。

「ん?あれ...」

何先生だったか。

「おはよう。一年の神崎さんだよ!私は千歳!」

「あ、ああ。おはよう」
「て、転校生とか...」

「いいえ?では...」


「まて、その子は?勝手に連れてきちゃあ」

千歳から何か...?スーッとした何かが流れだす。
キーンと音がして輪郭が抜けていく。
「形を表現していたもの」が「ただの色」と成り果てしまったとき。
目前の生命が失われたときのあの、胸の内側に空洞ができるような喪失感がほんの少し音を立てた。

9
(たしか数学担当だった)先生は作り替えられた。
でも見た感じは思考や感情だけ作り替えているようだ。
私にされたものはもっとひどい情景だったのだろうか?
今の私ならできるだろうからいつかやってみようか?

「おまたせー」

「先生?」

「...」

「ごめんねー。すごく頑固だったから神崎さんを無視するようにしちゃった」

「いいよ。何も変わらないから」

「よくないこと?そんな顔してる」

「本当はもっといろんな人と話して、仲良くして...」

「私達だからいいじゃない」
「ご飯だって食べないようにすることだってできるよ。眠らないようにすることだってできる」
「人間のことを学ぶのはいいけど、飲み込まれてどんな良いことがあるの?」

私は人間としてうまくいっていなかった。
だから...きっと早くに社会の荷物か、犯罪をしていたと思う。
少なくとも、いてもいなくても同じな存在だろう。
いなくなった方が良いはずなのに...。

「そうね。その通り」
「これから面白くすることだってできるんだから」

神崎さんは無理やり笑った。どうしても笑いたかったからだ。
千歳との出会い。
そのたった一粒の、それも質の悪いささやかな幸運に神崎さんは笑顔を送りたかったのだ。

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