第五話 にゃあごさんが消えた

文字数 989文字

 ところが、ある日を境ににゃあごさんからのコメントが付かなくなった。個人メッセージも送ってみたが、既読が付かない。どうしたんだろう、何か変な事を書いただろうか? 私はメッセージの履歴をさかのぼり、二人のやり取りを今一度読み返してみた。特に問題は無さそうであったが……。

 一週間たち二週間が経過し、ついに月が替わってしまった。にゃあごさんからは依然として音沙汰がない。私は張り合いをなくし、フェイスブックに記事を上げるのをやめてしまった。するとなんだか急にいろいろと面倒くさくなって、朝早く起きて散歩するという日課もやめてしまった。
 これはにゃあごさんが「毎朝ウォーキングしている」というので自分も始めたことで、帰宅後にメッセージを送り合い、散歩中に撮った写真をフェイスブックに載せたりしてそれなりに楽しんでいたのだ。しかしにゃあごさんがいない今となっては、やる意味がなくなってしまった。

 にゃあごさんはある時、「新しくウエア買っちゃいました〜!!胸に猫ちゃんのワンポイント、かわいいでしょっ」と、ピンク色の上下セットのジャージを投稿していた。私はそれを着たにゃあごさんが私の隣をはつらつと歩いている姿を、つい想像してしまった。もっとも、顔写真はいっさい載っていなかったので、頭部は彼女の飼い猫であるアビシニアンの「にゃあご」で再生されたのだが。
 そんな事を考えている自分が恥ずかしいやらおかしいやらで、一人でのウォーキング中に思わずニヤついてしまった。それは私にとって、楽しい時間であった。

 また、読書に関してもそうだ。太宰治全集を読んだことで昔読んだ他の本を思い出し今一度読み返したくなり、芥川龍之介、谷崎潤一郎、志賀直哉などの全集を揃えた。そして「文学青年ならぬ文学老人だな」などと自嘲しつつも、熱心に読みふけった。
 すると若い時分には十分理解できていなかった箇所に気付いたり、逆に今読んでも再度新鮮な感銘を受けたりと、文学の面白さを再認識した。
 が、これもまた読んだ本について語り合うことができる、にゃあごさんがいたからこそ成り立っていたようで、読書欲も急激に冷めてしまった。

 にゃあごさんの存在が、自分にとってどれほど大きなものになっていたかを、いなくなってしみじみと思い知らされた。
 
 こうして、色づき始めた私の毎日は、またしても色を失い味気のないものとなっていった。


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