第2話
文字数 565文字
今から20年前、アポン国は財政破綻によって物価が上昇し続け、インフレとなった。
食糧自給率5%のアポン国の民は輸入品も買えず、食糧難から栄養失調に陥った。
暴動が起きるのは時間の問題であった。
緊急対策に乗り出した政府調査隊は、幸運にも樹海で謎の有機物を発見した。
それは必須アミノ酸と全ての栄養素を高濃度にバランスよく含む完璧な植物だった。
政府研究所は、それをサプリメントに加工し、アポンFと名付け、全国民に配給した。
アポンFは国民を飢餓から救ったが、錠剤と水だけの食生活は人々の精神を蝕み始めた。
そこで、政府研究所はフルフェイスヘルメット型5D再生コンピューターカメラ『バーチャルディナー』を開発した。
それは、ナイフとフォークの動きから、刻まれ食べられていく料理の姿をヘルメットに取り付けられたゴーグルに映し出す物であった。
と、同時に特殊な2極管で発生させた電波を局所的に照射して大脳皮質の視覚野等の五感を刺激し、料理の香りや音、味、食感やのど越しまでもリアルに再現し、満腹中枢をも刺激する。
つまり、何も無いテーブルで実際には無い料理を腹いっぱい食べて味わうことができるようになったのだ。
街には政府直営のバーチャルレストランが並び、国民は一日一食、世界の珍しい料理や超高級料理を仮想体験できることになり、今日に至っていたのである。