3 大ばば様の命

文字数 1,804文字

恵斗が夢で見ている世界。
現実世界とは別の次元、すなわち異世界に存在する場所、デザン大陸。

恵斗がいつもいる広場があるウィザーリア国から遥か北側には、雄大な森が広がっている。

その森の中にあるとある村で、1つの命が燃え尽きようとしていた。

「大ばば様……」

大ばば様と呼ばれた老年の女性は、目を瞑ったままゆっくりと呼吸をしている。
最高齢であるこの女性の最期を見届けるために、村中から人々が女性の家に集まっていた。

「みな、覚悟せよ……ばば様が旅立たれる時が近い」

村長らしき壮年の男性の言葉の後、すすり泣く声があたりから聞こえてくる。

「母上……、」

村長は涙ぐみながら、今にも旅立たとうとしている母の手を握った。

その時。

母…大ばば様がカッと目を見開いた。

「母上?!」

突然大ばば様が目を見開いたのを見た村長は、驚きの声を上げる。

「生きておる」

大ばば様は本当に死にかけていたのかと疑いたくなるくらい、勢いよくむくりと上半身を起こした。

「大ばば様……!!」

「大ばば様が持ち直したぞ!!」

大ばば様の様子を見た村人たちから歓声が上がった。

「は、母上!お身体に障ります!」

突然起き上がった事を心配する村長をよそに、大ばば様は続けた。

「生きておるのだ……!私の曾孫(ひまご)が!!」

突然の発言に、村長や村人たちは困惑する。

「母上……何を……」

村人の1人がふと言った。

「曾孫って……慎(しん)と未斗(みと)の話か?」

確かに大ばば様には曾孫が2人いる。
慎と未斗、村長の息子の子どもで双子の兄妹である。

「母上、2人なら昨日も来たではありませんか。今も近くに……」

きっと曾孫に会いたいのだろう。そう判断した村長は慎と未斗を呼んだ。

「誰か、慎と未斗を中へ呼んでくれ!」

その時、村長の言葉を否定するかのように大ばば様がはっきりと言った。

「慎と未斗ではない!もう1人いるだろう」

もう1人。
その言葉を聞いた村人たちからどよめきの声が上がった。

「母上……何を仰るのですか?」

村人たちのどよめきの中、大ばば様は続けた。

「私には分かる……10年前のあの日、あの子は死んだとみな思っているだろう……あの子は死んでなどおらん。必ず私のところに来る……恵斗は来る!!その日まで私は死なん!!」



大ばば様のその言葉を、部屋の外から聞いている子どもたちがいた。
曾孫の慎と未斗である。

未斗は深妙な表情で大ばば様の話を聞いている。

「未斗、」

慎は未斗の背中に心配そうに手を添えた。

「慎、今の大ばば様の話……何?」

未斗の問いかけに慎は首を横に振った。

「……俺には分からない、」

部屋の中からは村人たちのどよめきと、2人の祖父である村長の声が聞こえてきた。

「母上、何を馬鹿な……、恵斗が生きているなどと!!」







恵斗がいた広場の先にある丘の上。
恵斗が見ている夢の世界、ウィザーリア国の王城がある。
城の中ではメイドや執事が忙しそうに走り回っていた。
今朝、城に1つの情報が入ったからである。


「1人目が見つかったと言うのは真か!」
自室で興奮しながら椅子から立ち上がった壮年の男性。
ウィザーリア国の国王である。

「はい、陛下。3日ほど前に城下町の広場に現れました」

臣下である執事は落ち着いた様子で答えた。

「そうか……!とうとう戻ってきたのだな!我らの希望が!!」

「まずは接触を試みております。すぐに召喚士ベルナデット・シュナイダーを向かわせました」

王は窓から外の城下町の様子を眺めている。

「うむ…シュナイダーか。彼女なら抜かりなくやるだろう……して、6人のうちの誰なのだ」

「東の森で行方不明になった『恵斗』と言う少年のようです」

窓の外を飛ぶ鳥を見ながら、王が答えた。

「ふむ……確か村同士の諍いに巻き込まれた子だったな……」

「それが……シュナイダーの話では、こちらの世界の事は覚えていないと」

その言葉に、王は振り返った。

「何だと……?どうしたものか……いや、必ず持っているはずだ。あの『結晶』を」

その時、コンコン、と言う音の後に、扉の外から若い女性の召使いの声が聞こえてきた。

「陛下、準備が整いました」

「うむ。ありがとう。アーサー、もし他の子どもが見つかったらすぐに知らせてくれ。私は妃と城下町に行ってくる」

「はっ」

アーサーと呼ばれた執事は王の言葉に返事を返した。

部屋から出ようとした王は再度振り返り、アーサーに告げた。



「シュナイダーに伝えろ。ゆっくりで構わん。恵斗の記憶を何としても取り戻すのだ」
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