二十六

文字数 841文字

 上海に到着する前日の夜、四人で甲板に出てシャンパンを開けた。
「兄キはこれからどうするんだ?」
「ああ、しばらく公務員を続けるつもりだが、その前に、親父の絵を八幡平の別荘に移したい」
「祖父さんの別荘か?」
「そうだ。八幡平に親父の絵のギャラリーを作ろうと思ってる」
「マア、素敵!」
 王美玲が目を輝かせて手を叩いた。
「リュウ、お前はどうするんだ? 日本へは戻らないのか?」
「すまない、今は帰るつもりはない」
「そうか」
 ハダケンゴがショウに声をかける。
「約束は果たしたぜ。これで貸し借り無しだ」
「ああ、わかってる。お前も好きにしたらいい」
 ハダがリュウをチラと見た。
「最後にもう一度聞くが、組織の贋作は白い月だったんだな?」
「ああ、コバヤシという男が出品して、それを趙建宏が落札した」
「わかった、お前を信じる」
 王美玲が沈みかけた空気を察し、ショウに話しかける。
「オ兄サント、セッカク再会デキタノニ」
「美玲さん、有難う。でも、心配しないでください。リュウとは、また必ず再会します。その時はぜひ、あなたも一緒に日本にいらしてください」
「兄キ、俺は一度台湾に帰って、組織を調べてみるよ」
「あまり無茶するんじゃないぞ」
 リュウが頷いた。外は漆黒の闇だった。船が波を裂く音と、エンジン音だけが響く。すると美玲が声をあげた。
「アッ、綺麗」
 見ると、航跡に沿って青白い燐光が揺れている。
「夜光虫だ」
 それは暗に大陸が近いことを意味していた。この旅ももうじき終わりを迎える。
「あいつらは、何だってあんなに青白く光ってんだ?」
「あいつらだって生きているってことさ、世界は人間だけのものじゃない。ああやって生き延びてきたんだ。進化の光・・・・・・未来は誰にもわからない」
 ショウが遠くを見た。

光の航跡が、星空のように輝いていた。
                             (了)

※最後までお読みいただき、誠に有難うごさいました。引き続き「虫たちは明日目指す5 雪夜に眠れ」をお楽しみ下さいませ。
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