【プロローグ】

文字数 731文字

昨日、一緒にバイトをやらないかと哲也から誘いの電話があった。
『ミステリーショッパー』と呼ばれる市場調査の類だ、ただの覆面市場調査と思いきや、条件があまりに良すぎる、危険な匂いがする。
兎にも角にも一度詳しい話を聞かせてもらうことになり、ここ鴨川沿いの喫茶店『凡』で落ち合う事にした。
混雑が予想される時間帯を避けた午前中の待ち合わせにした為、いつもは観光客で賑あうこの店内も今は人影もまばらだ。
僕は空いている窓側の席に腰を落ち着けた。
哲也とは同じ大学に通うクラスメイトで、僕が京都の大学に来て以来の友人になる。性格は真逆だが、何かと気の合う奴だ。
店の扉が開き哲也が入って来る。すぐに目が合い、軽く手を上げてこちらにやって来て僕の向かいに腰を下ろす。
「おはようさん、壮太。で、ええバイトだと思うやろ」
「だから何を調査するんだって?」
「簡単に言えば、ホテルんサービス調査さ。
接客、料理、設備、料金等々。しかも経費は全てクライアント持ち。バイト代は3泊4日でひとり、なんと10万円」
「おい、哲也。話がうますぎないか、どこから見つけて来た話だよ?」
「ネット!」
そう言うとスマホのページを開いて僕に渡してきた。
「ホテルパークガーデン京都って?」
「そう、超高級ホテルや、1泊3万円はするらしい。ええ話だろ、壮太」
「危ない話だなぁ~」
「危なければすぐ退散すりやぁええよ。まずは会って話を聞いてみようぜ。
それに、もう申し込んであるや、二人分」
「えー、本当に」
「ああ、どうせ暇してるんやろ夏休みの間」
「いつから」
「来週!」
「マジで!!」
こうして、哲也の勢いに押されて、来週から3泊4日のリッチなホテル暮らしが始まる事になってしまった。
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