04 バナナになりたい(2182文字)

文字数 2,182文字

「バナナになりたいです!」

 幼稚園のお誕生日会、おおきくなったら?の質問に、元気に答えた私。
お友達や、そのお父さんお母さん達に暖かい笑い起こる中、先生から

「そっかぁ、バナナが好きなんだねぇ」

と言われ

「はい!大好きです!バナナになりたいです!」

と答えると、その場は一層笑いに包まれた。

みんなから、かわいいとか子どもらしくて良いといった声が聞こえる。

『みんな楽しそう。やっぱりバナナ大好き』

私もとても楽しい気分になった。

ーーー

 小学生になってからも私のバナナ好きは変わることなく、友達や先生からも、バナナといったら私と言われるくらいになっていた。

「バナナになりたいなんて変だ」

なんて、からかわれて嫌な気分になったこともあったけど、言いたい人には言わせておけばいいと思って、気にしないことにした。

 うちの小学校では、ランドセルに拳大(こぶしだい)までの飾りを一つだけ付けるのが許可されている。もちろん私はバナナのマスコットを付けていた。
 言うまでもなく、文房具類なども ほとんどがバナナ柄だ。
 あと、遠足のおやつも、やっぱりバナナだ。バナナが おやつに入ろうが入るまいが。

 ただ、3年生ぐらいになると、将来の夢は

「バナナみたいな人になりたい」

と言うようになった。流石にバナナには成れないないし、成りたくはない。ただ、小さい頃は少し表現力が乏しかっただけで、気持ちはほとんど変わっていない。

ーーー

 中学生になっても、私のバナナ好きが変わることはない。三つ子の魂百までというやつか。
 ただ、中学生ともなると周りも理由を色々()いてくる。
 でも、バナナの素晴らしさを上げ出したら切りがない。
 まず、最初に、なんといっても美味(おい)しい。常温でも、冷やしても、凍らせても、火を通しても美味しい。そして、他のどの果物よりも剥きやすく、洗う必要もなければ手を汚すこともなく、すぐ食べられる。さらに栄養も豊富。オリンピック選手が試合前や試合の間に食べているだけあって、栄養面の話だけで、ずっと語っていられる。ビタミン、ミネラル、食物繊維、オリゴ糖、カリウム、それから免疫活性の話も。それでいて単価が安い。それから…
だいたいこのあたりまでで、ほとんどの人は

「ももええわ」

ってなって聴いてもらえなくなる。まだ言いたいことあるのに。

ーーー

 高校生になっても、もちろん目指すはバナナみたいな人である。

 この頃になると、流石(さすが)に人に説明するのも上手くなってきて、身近で親しみやすく、老若男女(ろうにゃくなんにょ)も洋の東西も問わずに愛されてるとか、どこかユーモラスな見た目に反して幅広い栄養(実力)を備えてるところとか、青い時から完熟まで それぞれの良さが認められてるところとか、わりと納得してもらえる事も増えてきた。

 そして、就職試験に向けた校内での面接練習。
正直、少し悩んだものの、自己PRとしてバナナの話をした。
担当してくれた先生は少し考えた後、インパクトもあって内容も凄く良いが、もう少しだけ伝わりやすい表現にしたほうが良いと、バナナを否定せず真剣に考えてくれた。

ーーー

 私がここまでバナナ好きになったのは、ちっちゃい爺ちゃんの影響だ。
ちょっとややこしいか、ちっちゃい爺ちゃんは、おっきい爺ちゃんのお父さんで、私の母方の曾祖父だ。

 おっきい爺ちゃん、つまり祖父は、父と同じぐらいの身長で、父より筋肉質で実際に力も強い。優しいんだけど、いかついので黙ってると少し怖い印象がある。

 それに反して、ちっちゃい爺ちゃんは、つまり曾祖父は、母と同じぐらい身長が低く、いつもニコニコしていて、でも時々 不思議な迫力もあり、仙人みたいで魅力的な人だった。

 私が物心付いた頃には、兄や従兄弟(いとこ)達はみんな、二人の爺ちゃんをそう呼び分けていたので、私も自然とそう呼んでいた。

 その ちっちゃい爺ちゃんが、無類のバナナ好きだったのだ。
ただ好きなだけでなく、その知識も相当なもので、バナナのことで知らないことは無いんじゃないかと思えるぐらい。
そんな話を聴くのが好きだった自分は、そのために爺ちゃんちに行くのが楽しみだった。
 なので、私が語るバナナの魅力や知識は、ほぼ全て ちっちゃい爺ちゃんからの受け売りだ。
 なかでも私が一番好きなのが

「バナナは人を笑顔にする」

ということだ。
ちっちゃい爺ちゃん()わく

「どんなに いかつい怖そうな見た目の者でも、バナナの皮をスルスルと剥いて、パクついとる姿を見れば、ちょっと可愛いとか、悪い人じゃなさそうに見えて、ちょっと微笑ましいじゃろ。実際は悪い奴だったとしても、きっとバナナを食べとる間は、悪い奴じゃ無くなっとる」

 ほんと、その通りだと思う。

ーーー

 就職試験を間近に控えたある日、ちゃちゃい爺ちゃんの急な訃報が届いた。

 百歳目前だったこともあり、身内はみんな大往生だとか言っていた。
 私としては、ほんと仙人のような印象だったので、亡くなる日が来るなんて考えてもみなかった。

 みんなから、バナナ仙人の跡継ぎはお前だと言われ、まだまだそんな歳ではないと言いながらも、悪い気はしなかった。

 祭壇にも大量のバナナが供えられ、ちっちゃい爺ちゃんの遺影は、いつも以上の笑顔に見えた。
「任せたぞ」
と言われたような気がした。

ーーー

 そして迎えた就職試験。
『ちっちゃい爺ちゃん、見ててな』

「バナナのような人になりたいです。理由は…」

 



 
 
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