01 太郎物語(4994文字)

文字数 4,994文字

2020.10.18作成・2024.9.4修正・2024.9.5再修正

昔々あるところに、お爺さんと お婆さんが二人で住んでいました。

ある日、お爺さんは山へ しば刈りに、お婆さんは川へ洗濯に出掛けました。

お婆さんが洗濯をしていると、川上から大きな桃が
『どんぶらこぉ どんぶらこぉ~』
と、流れてきました。

お婆さんは、長年生きてきて初めて触れる擬音にとまどいながらも、その桃を見事な足さばきでゲットしました。


家に持って帰り、お爺さんと二人で食べようと、二人がかりで皮をむき、せーので かぶりついた瞬間、桃が
『パッカーン!』
と、割れて、中から元気な男の子が出てきました。

子供が居なかった二人は大喜び。

そして、これからのことや、川を流れてきた擬音のこと、生まれた瞬間は馴染み深い擬音でちょっと安心したことなど、楽しく話しながら、三人でお腹いっぱい桃を食べました。

それから、男の子は太郎と名付けられ、すくすくと育ちました。

太郎はとても優しく力持ちで、いつも森の動物たちと相撲をとったり、木の実を拾ったりして仲良く遊んでいました。

ある日、動物達と木の実をとりに出かけると、川にかかっていた橋が壊れて渡れなくなっていました。
「どうしよう…」
みんなが困っていると太郎は、近くにあった大きな木を なぎ倒して橋を作ってしまいました。
「わぁ!すごいや!ありがとう」
「太郎さんは日本一の力持ちだね」
みんな大盛り上がりです。

みんなのテンションがマックスになった頃、木の実とりスポットに到着しました。

しかし、そこには大きな熊がいました。
「なんだよお前ら?ここのハチミツは全部ぼくのものだぞ!」
そう言うと、いきなり襲いかかってきました。

突然の事に驚いた太郎は反射的に
「えいやっ!」
と投げ飛ばしてしまいました。

飛ばされた熊は、遠くのウサギの巣穴に突っ込んでいました。
「ごめん!大丈夫?」
太郎は遠くから声をかけながら駆け寄ります。

でも、その熊とウサギは友達だったらしく、熊はウサギにハチミツをたっぷりもらってお腹いっぱい大満足。

「さて、そろそろ帰るとするかな。さようならウサギ君」
と穴の外へ出ようとしましたが、
「あれ?」
大きなお腹がつっかえて出られません。
あわてて戻ろうとしましたが前にも後ろにも動きません。

「うわぁ助けて!苦しいよぉ!クリストファー○ビ~ン!」
「なんてことだ、あんなに食べるからだよ」
ウサギがお尻を押しましたが、ビクともしません。
「はー、こりゃダメだ」
あきらめムードのウサギと、悲しそうな熊のもとに、太郎たちが到着しました。

事情を聴いた太郎たちは、皆で力を合わせて熊を助け出しました。

「ありがとう!さっきはゴメンね。これ、お詫びとお礼のしるし」

と言うと、その黄色い熊は、着ていた赤い服を脱ぎ太郎に着せました。

服を脱いで全裸になった熊をみて、今まで服だけ着ていて、下半身は丸出しだったのかと思った太郎だが、よく考えたら他の動物達は みな初めから服など着ていないので、なんらおかしいことはない。…だが、やはり何か少し釈然としない。

大きな熊でしたが、着ていた服は小さめだったため、意外にも太郎にピッタリサイズでした。

その服には胸に大きく金色の刺繍が入っています。
「アOOん?」見たことない文字で太郎には読めませんでした。
でも、珍しいその金色の刺繍がとても気に入った太郎は、それから毎日その服を着るようになります。

やがて金刺繍でお馴染みとなった太郎は、動物たちから金太郎と呼ばれるようになり、仲良くなった熊の背中にまたがり、野山を駆け回るのでした。

それから月日がたち、金刺繍の服もサイズアウトして着なくなった頃から、太郎のことを【金太郎】と呼ぶものもほとんど居なくなっていきました。

やがて、苗字の【桃山】と名前の【太郎】から【桃太郎】と呼ばれることのほうが多くなっていたある日、太郎は村人たちを困らせる鬼の話を聞きました。

太郎は、お爺さんお婆さんや、村のみんなを守るため、鬼ヶ島へ鬼退治に行く事を決心しました。

お婆さんが作ってくれた きび団子を腰にぶら下げ家を出る太郎。

浜に着くと、鬼ヶ島へ向かう太郎を見送りに、動物たちも集まってくれていました。

すると、きび団子に目がない犬、猿、キジが
「ぼくたちもお供します!」
と、きび団子を見つめながら駆け寄りました。

太郎は優しく微笑み
「絶対に無理は するなよ」
と、三匹を抱き寄せました。

鬼ヶ島へ着くと、鬼たちは村から奪っていったお酒や食べ物を囲み、宴会の真っ最中でした。

「なんてことだ?!ちくしょー!やっちまえ!」

意外にも一番に飛び出したキジが、クチバシで鬼の目玉をブスリ!

「ぎゃーー!!」
「なんだ!?なんだ!?」
「よし子!大丈夫か!?」
「おのれ!よくも!」

楽しかった宴は一転大混乱です。

太郎と犬、猿も、普段大人しいキジの意外な行動に少々パニクって
「なにしてんだよ?!お前!?まず話し合いからだろ?!」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「きび団子、きび団子が足りなかったのか?」
「すみません、普段はこんなことする奴じゃないんです」
と、オロオロ。

しかし、いきなり襲われた鬼たちも冷静さを失い、太郎たちに襲いかかってきます。

「痛い!痛い!」
「キジが勝手にやったことで、ぼくはまだ何もしていません!」
「正当防衛…正当防衛ってことで良いですよね?」

太郎はパニクりながら、腕を振り回しました。
すると、運悪くその腕が鬼の大将にドーン!!

鬼の大将は、遠く海の向こうまで飛ばされてしまいました。

あっさりと大将がやられ静まり返る宴会場。

鬼たちはこれまでの悪行を悔い改め、これからは村に悪さをしないことを約束し、村から盗んだ物も全て返すと約束しました。



「そんなことで…そんなことで ゆるされると思うな!?」

叫びながら飛びかかろうとするキジを、太郎は素早く捕まえ

「いいかげんにしろよ!」

これまで見たことのないような怖い顔で睨みつけられたキジは、やっと我に返り、しばらくの沈黙の後、ポツリポツリと語り出した。

「…すまなかった…でも、どうしても冷静でいられなかった…この…この首飾りを見てくれ」

と言って、太郎たちに小さな首飾りを差し出した。

「これ…母さんのなんだよ…先週…先週、鬼たちに…さらわれた…」

「?!…でも、でもそれだけじゃ、まだ…」
動揺を隠せない犬が言いかけた時、キジは静かに首を横にふり

「これ、そこに有ったんだ…その……その、キジ鍋のすみっこに…」

「うぉー!!」
猿は大声で泣き出した。

少し遅れて太郎と犬も泣き出したかと思うと、全てを聴いていた鬼たちも揃って大号泣。
中には土下座して謝り続ける鬼もいた。
その鍋の一番近くにいた、片目の潰れた女の鬼だった。
「こんなことであなたの気はおさまらないだろうけど…この腹かっさばいてお詫びを…」

するとキジは黙ってその鬼に近付いた。

「…すまない…生き物はみんな誰かの命をもらって生きている…僕たち鳥も、犬も、猿も人間も…そして、キミたち鬼だって……どうか…どうか、母の命を無駄にせず、母のぶんまで生きてくれ。………太郎、この目の手当てをしてやってくれるか?」



こうして、平和を取り戻した村へ帰るやいなや、太郎のもとへ熊が駆け寄ってきた。

「大変だよ太郎!鬼が、鬼が飛んできてウサギさんの巣穴にはさまってしまったんだ!鬼はまだ気絶してるみたいだけど」

太郎たちが駆けつけると、鬼の大将は目覚めていて、ウサギさんにすすめられたハチミツをご馳走になっていた。

「穴から出られなくなる前に外に出てきてもらわなきゃ!」

みんなで声をかけると、一撃でやられて すっかり意気消沈した鬼の大将は、ばつが悪そうにゆっくりと出てきて、もう村に悪さはしないと約束した。

そして、島であったことを聴くと、泣きながら深く謝罪した。

それからまた月日が流れ、鬼たちともすっかり仲良くなった頃、太郎はりっぱな青年になっていた。

そんなある日、浜辺で亀をイジメる子供たちを見かけた太郎。
亀はずいぶん弱ってしまっています。

「こら!お前たち!何をしてるんだ?!」

「なんだよ?おっさん、ほっといてくれよ」

「その亀…食うのか?」

「な?!食わねーよ、バカじゃねーの?」

「バカはそっちだ!生き物を殺しても許されるのは、生きるために食う時だけだ!」

「な…なんだよ、それ?バカじゃ…」
「いや…この人の言う通りだよ」
「な、なんだよお前まで…」
「な、もう行こうぜ」
「すみませんでした」

その内の一人が太郎と亀に向かって深々と頭を下げると、子供たちは反省した様子で去っていった。

「ありがとう御座います。このご恩は必ずお返しします」
亀は太郎に礼を言うと、静かに海へと帰って行った。

それから数日後、ちょっとだけ、ほんのちょびっとだけ、恩返しを期待しなかったと言えば嘘になるっちゃーなるかなとか、思ったり思わなかったりしながら、太郎は浜辺へ出かけた。

するとそこには亀の姿は無く、親友の よし子が居た。

いつものようにくだらない話で笑い合い、そろそろ帰ろうとしたところで

「そう言えば、さっき亀から預かってたわ」

と、よし子は太郎に手紙を手渡した。

「お、おう、ありがと。じゃぁな」

と、平静を装いながら手紙を受け取った太郎だったが、

『恩返し…キターーッ!!』

と心の中でガッツポーズをしているのだった。

手紙で指定された日時に、浜辺へ向かう太郎は、初デートの乙女ような、ソワソワウキウキした気分で一杯だった。

亀の背中に乗り竜宮城へ着くと、それはもう絵にも描けない美しさで、文章に出来ないほどの歓迎を受けた。

乙姫様の美しさはもちろん、タイやヒラメの舞い踊りも、それはもう絵にも描けない(以下略)

ただ、出された料理はどれもとても美味しかったが、乙姫の言葉に甘えて一週間も居ついてしまうと

『海藻や野菜、肉ばかりで、魚が無いのが少し残念…いやいやいや、さすがにここで魚は食えんて!』

などと考えるようになってきた。

それよりなにより、爺ちゃん婆ちゃんも心配だし、心配もしてくれているだろう。
それに、よし子も…

少し名残惜しいが、乙姫たちに別れを告げ、家へ帰ることにした太郎。

帰り際に乙姫様から
「絶対に開けてはいけませんよ」
と玉手箱を渡され

「え?!…じゃあ、いりません」

と断ったが、竜宮城の掟で、玉手箱を受け取らず帰る者には、帰りの道中酸素を供給出来ないと聞かされ、恐ろしくなって受け取った。

村に帰った太郎だったが、なにか様子がおかしいことに気付く。

浜辺にあったコンビニが、いつの間にか潰れているのはともかく、村には見かけない人ばかりだし、自分が昔作った橋も無くなっている。

急いで家に帰るが…
あるはずの場所に家が無い…

「爺ちゃん!婆ちゃん!…よしこー!!」

激しく動揺した太郎、持っていた玉手箱が手から滑り落ちた。

「しまった!」

慌ててキャッチしようとしたが間に合わず、玉手箱は地面に叩きつけられ、中から白い煙がモクモクと立ち込めた。
煙に包まれ、薄れゆく意識の中で

『モクモクって…馴染み深い擬音で…良かった…』



「…さん…太郎さん?」

誰かの呼ぶ声で目覚める。
まだ、意識も視界もぼんやりとしている。

「だ…誰だ?…もうこの村…浦島村には、私のことを知る人など…」

「私、私よ太郎さん!…よし子、よし子よ!」

「よし子?!よし子なのか?!」

そこには確かに、見慣れた眼帯をした よし子の姿が有った。
だが、だんだん意識と視界がハッキリするとともに異変に気付く。

「よし子…お前…なんだ?…その姿は?」

「え?!なにって?…」

「そんな…すっかりお婆さんになって…」

「何を言ってるのよ、六十年もたてば誰だって歳をとるわよ…そう言うあなたこそ」

そう言われ、しわくちゃになった自分の手を見つめ、その手で しわくちゃになった顔に触れる太郎。

「そうか…そうだな…ごめん、六十年も待たせて…」

「ううん!あなたが無事に戻って来てくれただけで…」

見つめ合い、抱き合う二人。



二人は、太郎が住んでいた家と同じ場所に、もう一度家を建て、幸せに暮らしました。



ただ、年老いた二人には、お互い口には出せない望みがありました。

『神様、願わくばこの老いぼれ二人に、どうか子を授けて下さい』



そしてある日、太郎は山へ しば刈りに、よし子は川へ洗濯に出掛けました。

よし子が洗濯をしていると、川上から大きな桃が…

~完~
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