②毒師とロリ三十路〜ネズミもこもこ〜
文字数 2,417文字
2日後に再度、グロピー宅に行ってみる。
薬物を投与されたその"とぐろうんこ"イラスト付きのラットは、明らかに体が大きく成長していた。しかも、元気にケース内をうろついている。
「ほら見ろ、そら見ろ、どうだぁ! 年相応の大きさになったぞぉ!」
グロピーが喜色満面、耳障りなデカい声で自慢する。
いつもは不快にしか感じないグロピーの偉そうな態度が、喜びの感情のおかげでなんとも思わない。Ftは目を輝かせた。
「……ねっ、ねぇ! もうコレ、成功じゃない? 薬、飲ませてよ! ねぇねぇ!」
年相応の体に早く成長したいFtが、グロピーを急かす。
「いや。まだたった2日しか経っていない。もう少し様子を見てから……」
「いやぁだ! 大人の体になりたいブラジャーつけたいカワイイぱんつ買いたい妊娠したい! ……あ、ねぇKさん!」
近くの席で泥水のような謎の液体を腕の血管に注入していたKに、Ftがいきなり話をふる。
「私が大人の体になったら、子種ちょうだい!……ね? 私、Kさんのこと好きだから!」
「………?! ヤですよ!!!」
「抱いてよぉ!」
「………う、くぅっ……」
Ftの鬼畜のような実父を殺害したのは、昔のKである。K自身はそれを負い目に感じているのだが、Ftはそのことをただ感謝していた。
実の娘を平気で売るような男は、死んで当然。同情の欠片も浮かんでこない。
と、いうわけでFtはKを好いていた。
「……“命令”なら僕に拒否する権利はないので……はい、仕方ない、ですね……」
Kがものすごく引きつった苦笑を浮かべた。
「やったぁ! 子種ゲットォ!」
Ftはガッツポーズをした。そばでRtが「良かったね、姉さん」と控えめに拍手をする。
「………いや、まだだっつってんだろ。事を急くな、三十路」
グロピーが低いテンションでFtの歓喜に水をさす。
「安全性がまだわからんから、もう少し……」
「いいよ! 投与してよ! ホラ!」
Ftが椅子に“どかっ”と座り、左袖をまくって、細く白い腕を出す。
「子供扱いは、も~うウンザリ! お酒を呑みたい! 高いヒール履きたいぃぃぃ! 」
Ftが左腕で机をどんどん叩く。グロピーがメガネの位置を直しながら、舌打ちをする。
「今日は、ただの経過報告としてお前らを呼んだだけであって、人体に投与するのはまだ早い。次はネコ辺りに実験……」
と、言ったところでグロピーが言葉を止めた。
Ftが不思議に思ってグロピーの顔をよくよく見てみると、どうやら視線が自分の後ろの方に向いている事がわかった。
Ftが振り返ると、ごちゃごちゃと物が散乱している机の上に置いたケースの中のラットの体が、つい先程見た時より若干……若干、大きくなっていた。
じっ、と見つめているとラットの皮膚がボコボコと醜く膨れ始めた。
内側から何か破裂しているのだろうか、“ボコボコ”のリズムに合わせてラットが口から血を吹き出す。
ボコボコムクムクを繰り返し、ラットがただの“肉団子”と化したところで、それは破裂した。
ケース内が、内蔵と血によって鮮やかに彩られた。千切れた“笑うとぐろうんこ”の皮膚部分がケースにべったり貼り付き、こちらに微笑む。
「……………」
この場にいた4人全員が、沈黙した。
「…………よし」
しばらくして、最初に沈黙を破ったのはグロピーだった。
「………じゃ、投与するか……」
グロピーはFtの剥き出しの細腕に、そっと触れた。
「おいぃぃぃぃ!!!??」
Ftが全く可愛くない叫びを上げる。
「今! 破裂したわよ?! ネズミ!! ソレを見てなんで、そんな言葉が出るワケ?!」
「………あんなすごい毒薬……試してみたいじゃないか……」
グロピーはワクワクしている。どうやら『人体に試したい』という毒師の性に火がついたらしい。
「あんた、さっきまで『結果がどうなるかわからん』だの『安全性』だの言ってたでしょーにっ!」
「……ん、もうどうでもよくなった。……もうあきらめろよ。幼女姿、ツラいんだろ? ……ラクになろうぜ」
グロピーが異様に優しい笑顔を浮かべる。
「っつーか俺、そもそも『人を異常にさせる』のが本業だっつの。そんな俺が『人を治せる』ワケねぇじゃん?」
それもそうですね、と隣でKが納得した。
「や、や、や、やぁぁぁああ!!!!」
Ftが泣き叫びながらグロピー宅を飛び出した。Rtも慌てて、それに倣う。
「このバカァ! ぽんこつメガネェ! 役立たずぅ!」
マニアが耳に入れたらさぞ喜ぶであろう、泣きの入ったロリボイスを、Ftは無料で聴かせてくれた。
******
めんどくせぇ。
その当の“ぽんこつメガネ”は、しみじみそう思った。
グロピーの本業は、先程も言ったが『人を異常にする・もしくは殺す薬の作成』である。『人を治す』なんてことは、したことがない。
風邪などの、簡単な治療薬なら作成できるが、あの“偉大なる毒師”である祖父の生み出した毒薬の解毒劑など、作成できるわけがない。
“ぽんこつメガネ”は、ため息をついた。
………いやいや、毒の再現作成はできたのだ。なら、解毒薬だって作れるはずだろ、俺。
とっとと完成させて、あのまとわりつくうるさいロリ三十路を追い払いたい。そして………。
グロピーが苦々しい顔をしている横で、Kが「この錠剤、飲んでもいいですか?」と棚の中の瓶を指差した。
飲めばぁ? と許可すると、Kはその“食べると手足の痺れ・肛門の激痛を伴う下痢・皮膚のただれ”が起こるはずの錠剤を、ボリボリとラムネのように食べ始めた。グロピーはついでに、その錠剤の1粒を取り、また別のケース内のラットに与えた。
数十分経っても何も起こらないので、Kが「コレ、お菓子だったのですか?」と、のたまった。
錠剤を与えたラットの方は、ケース内でもんどりうって糞尿を垂れ流している。
殺したい………。
祖父の作った毒の解毒と、Kを殺す薬、どちらが先に完成するだろうか。
薬物を投与されたその"とぐろうんこ"イラスト付きのラットは、明らかに体が大きく成長していた。しかも、元気にケース内をうろついている。
「ほら見ろ、そら見ろ、どうだぁ! 年相応の大きさになったぞぉ!」
グロピーが喜色満面、耳障りなデカい声で自慢する。
いつもは不快にしか感じないグロピーの偉そうな態度が、喜びの感情のおかげでなんとも思わない。Ftは目を輝かせた。
「……ねっ、ねぇ! もうコレ、成功じゃない? 薬、飲ませてよ! ねぇねぇ!」
年相応の体に早く成長したいFtが、グロピーを急かす。
「いや。まだたった2日しか経っていない。もう少し様子を見てから……」
「いやぁだ! 大人の体になりたいブラジャーつけたいカワイイぱんつ買いたい妊娠したい! ……あ、ねぇKさん!」
近くの席で泥水のような謎の液体を腕の血管に注入していたKに、Ftがいきなり話をふる。
「私が大人の体になったら、子種ちょうだい!……ね? 私、Kさんのこと好きだから!」
「………?! ヤですよ!!!」
「抱いてよぉ!」
「………う、くぅっ……」
Ftの鬼畜のような実父を殺害したのは、昔のKである。K自身はそれを負い目に感じているのだが、Ftはそのことをただ感謝していた。
実の娘を平気で売るような男は、死んで当然。同情の欠片も浮かんでこない。
と、いうわけでFtはKを好いていた。
「……“命令”なら僕に拒否する権利はないので……はい、仕方ない、ですね……」
Kがものすごく引きつった苦笑を浮かべた。
「やったぁ! 子種ゲットォ!」
Ftはガッツポーズをした。そばでRtが「良かったね、姉さん」と控えめに拍手をする。
「………いや、まだだっつってんだろ。事を急くな、三十路」
グロピーが低いテンションでFtの歓喜に水をさす。
「安全性がまだわからんから、もう少し……」
「いいよ! 投与してよ! ホラ!」
Ftが椅子に“どかっ”と座り、左袖をまくって、細く白い腕を出す。
「子供扱いは、も~うウンザリ! お酒を呑みたい! 高いヒール履きたいぃぃぃ! 」
Ftが左腕で机をどんどん叩く。グロピーがメガネの位置を直しながら、舌打ちをする。
「今日は、ただの経過報告としてお前らを呼んだだけであって、人体に投与するのはまだ早い。次はネコ辺りに実験……」
と、言ったところでグロピーが言葉を止めた。
Ftが不思議に思ってグロピーの顔をよくよく見てみると、どうやら視線が自分の後ろの方に向いている事がわかった。
Ftが振り返ると、ごちゃごちゃと物が散乱している机の上に置いたケースの中のラットの体が、つい先程見た時より若干……若干、大きくなっていた。
じっ、と見つめているとラットの皮膚がボコボコと醜く膨れ始めた。
内側から何か破裂しているのだろうか、“ボコボコ”のリズムに合わせてラットが口から血を吹き出す。
ボコボコムクムクを繰り返し、ラットがただの“肉団子”と化したところで、それは破裂した。
ケース内が、内蔵と血によって鮮やかに彩られた。千切れた“笑うとぐろうんこ”の皮膚部分がケースにべったり貼り付き、こちらに微笑む。
「……………」
この場にいた4人全員が、沈黙した。
「…………よし」
しばらくして、最初に沈黙を破ったのはグロピーだった。
「………じゃ、投与するか……」
グロピーはFtの剥き出しの細腕に、そっと触れた。
「おいぃぃぃぃ!!!??」
Ftが全く可愛くない叫びを上げる。
「今! 破裂したわよ?! ネズミ!! ソレを見てなんで、そんな言葉が出るワケ?!」
「………あんなすごい毒薬……試してみたいじゃないか……」
グロピーはワクワクしている。どうやら『人体に試したい』という毒師の性に火がついたらしい。
「あんた、さっきまで『結果がどうなるかわからん』だの『安全性』だの言ってたでしょーにっ!」
「……ん、もうどうでもよくなった。……もうあきらめろよ。幼女姿、ツラいんだろ? ……ラクになろうぜ」
グロピーが異様に優しい笑顔を浮かべる。
「っつーか俺、そもそも『人を異常にさせる』のが本業だっつの。そんな俺が『人を治せる』ワケねぇじゃん?」
それもそうですね、と隣でKが納得した。
「や、や、や、やぁぁぁああ!!!!」
Ftが泣き叫びながらグロピー宅を飛び出した。Rtも慌てて、それに倣う。
「このバカァ! ぽんこつメガネェ! 役立たずぅ!」
マニアが耳に入れたらさぞ喜ぶであろう、泣きの入ったロリボイスを、Ftは無料で聴かせてくれた。
******
めんどくせぇ。
その当の“ぽんこつメガネ”は、しみじみそう思った。
グロピーの本業は、先程も言ったが『人を異常にする・もしくは殺す薬の作成』である。『人を治す』なんてことは、したことがない。
風邪などの、簡単な治療薬なら作成できるが、あの“偉大なる毒師”である祖父の生み出した毒薬の解毒劑など、作成できるわけがない。
“ぽんこつメガネ”は、ため息をついた。
………いやいや、毒の再現作成はできたのだ。なら、解毒薬だって作れるはずだろ、俺。
とっとと完成させて、あのまとわりつくうるさいロリ三十路を追い払いたい。そして………。
グロピーが苦々しい顔をしている横で、Kが「この錠剤、飲んでもいいですか?」と棚の中の瓶を指差した。
飲めばぁ? と許可すると、Kはその“食べると手足の痺れ・肛門の激痛を伴う下痢・皮膚のただれ”が起こるはずの錠剤を、ボリボリとラムネのように食べ始めた。グロピーはついでに、その錠剤の1粒を取り、また別のケース内のラットに与えた。
数十分経っても何も起こらないので、Kが「コレ、お菓子だったのですか?」と、のたまった。
錠剤を与えたラットの方は、ケース内でもんどりうって糞尿を垂れ流している。
殺したい………。
祖父の作った毒の解毒と、Kを殺す薬、どちらが先に完成するだろうか。