第1話 優しい悪魔
文字数 2,026文字
「ただいま、あれ……」
北の街札幌。玄関に見慣れぬ白いサンダル。これを見た中学生の美紅はそっと居間の扉を開けた。
「お。来たか」
「おかえりなさい」
「……どうも」
リビングのソファ。父と親しげに話す女性はにっこり挨拶をした。
「元気なお嬢さんね。こんにちは!私は小林まりやと言います」
「は、はい」
もしかして父の彼女かと思った美紅は声が裏返ってしまったが、父の京介は平気な顔で娘に向かった。
「美紅。あのさ。今度うちの爺さんを施設に入れるだろ?」
「うん」
「その手配をこいつがやるから」
「はい!」
「へ」
嬉しそうな彼女に娘の美紅はちょっと、と父の肩を掴んだ。
「……お父さん。どういう事?」
「まりやは親戚なんだよ」
「美紅ちゃん、私が説明するね」
白いワンピースの長い黒髪。清楚な彼女は幼い頃。父と一緒にここで暮らしていたと笑った。
「だからお爺さんにもお世話になったの」
「それって従姉妹とかですか」
「ええとね。私は美紅ちゃんのお爺さんの」
「やめとけ。説明してもわかんないから」
それより飯にしてくれと、会社から帰ったままの父はまりやに言った。いつもは父が支度をしているため美紅はまじでびっくりした。
「良いの?お客さんなのに」
「良いから。お前も着替えてこい。それとな」
まりやはしばらくこの家に住むからと父はネクタイを緩めた。
驚くばかりの美紅はとにかく自室で着替え、彼女と一緒にキッチンに立った。
髪を結び持参したエプロン姿でキッチンに立つまりやは色白美人だった。幼い頃、両親が離婚し母を知らぬ美紅はドキドキしていた。
「ふふ。大丈夫よ。私は美紅ちゃんのお母さんじゃないの」
「そーなんですか」
薬指の指輪のまりやは、野菜を洗っていた。
その濡れた細い手には火傷の跡があった。
「それ」
「ああ?これ?私はおっちょこちょいなの」
そんな彼女は楽しそうに話を続けた。
「今回はね。昔お世話になったから私が協力したいって頼んだのよ」
「そーなんですか、って。そういえばうちの爺ちゃんは?」
ディケアから帰ってない祖父は、今日はショートスティになっているとまりやは説明した。
京平は仕事で出張がある事と、美紅が受験生という事でまりやに相談していたと言った。
「私は未亡人なの。それにお爺さんの件が済んだら帰るからね」
「わかりました」
「……飯は」
「あ?もうすぐです!」
風呂からでた父は、いつものソファに座っていた。その時、美紅は驚く光景を見てしまった。
「京平。髪が濡れてるわよ。ほら」
「うるせ」
父の髪を優しく拭くまりやに、美紅は固まってしまった。
「……何してんの、お父さん」
「ほら。まりや。お前が言え」
「あら?そうだったわね」
まりやは美紅を見て笑った。
「私はね。昔から京平のお世話係なの」
その夜。食事を終えた美紅は自室のベッドで悶えていた。
……なんなの?お父さんの甘えっぷりは?
硬派だと思っていた父を甲斐甲斐しく世話する謎の美女。
美紅は悩みながらもその夜は眠った。
翌朝。
味噌汁の匂いで起きた美紅は学校に向かった。
彼女は昨日の衝撃的な出来事を仲良しの莉子に話した。
「やばくない?それって再婚相手じゃないの」
「そうかも」
こんな話をしてもドキドキしているだけの美紅は、彼女がいる家に帰って来た。
午前授業で帰って来た美紅は、玄関前でまりやが男と話し込んでいるのを目にした。
美紅はそれを勝手口から回りこっそり聞いていた。
「ですから。パンはもう要りません」
「でも契約ですので」
するとまりやは男にお金を出した。
「今回は支払いますけど。実はね。うちはパンを買った形跡がないんですよ」
「そんな事ないです。毎度、お渡ししてますよ。食べたんじゃないですか」
「へえ。食パン3巾を?一人で」
するとパン屋の男はムキになって話した。
「ここのお爺さんは、いつも友達にあげていましたよ」
「そうですか……いや実はですね。家の現金がいつの間にか減っているですよ」
エプロンまりやの声に、移動パン屋の男の顔色が変わった。
「これから警察に届けるところなんですけど。あなた、何かご存知?」
「え?じ、自分は」
「その友達とやらを教えていただこうかしら?」
やんわりとした彼女の声に、無理やりパンを買わせていた男は知っている事を白状した。
「囲碁仲間ね?わかりました。あのね」
「は、はい?」
まりやは美しい微笑みで彼を見つめた。
「高齢者にパンを押し売りするのはもう止めなさい。それにね。販売するなら」
まりやは彼に何か知恵を授けて帰して行った。
「あら?美紅ちゃん。お帰り」
「た、ただいまです」
「見られちゃったわね」
恥ずかしそうなまりやは美紅がお昼を食べた。
「え?お爺ちゃんてそんなに買い物していたんですか」
「そうなのよ」
判断力がない源太に悪い奴が集 っていたとまりやは素麺を食べた。
「買った物を持っていく人もいるのよ。だからわからなかったのね」
「許せない」
「大丈夫。鉄槌を喰らわすから」
そんな彼女に美紅はドキドキで父との関係を尋ねた。
「ああ。私達は本当に一緒に育ったのよ」
つづく
北の街札幌。玄関に見慣れぬ白いサンダル。これを見た中学生の美紅はそっと居間の扉を開けた。
「お。来たか」
「おかえりなさい」
「……どうも」
リビングのソファ。父と親しげに話す女性はにっこり挨拶をした。
「元気なお嬢さんね。こんにちは!私は小林まりやと言います」
「は、はい」
もしかして父の彼女かと思った美紅は声が裏返ってしまったが、父の京介は平気な顔で娘に向かった。
「美紅。あのさ。今度うちの爺さんを施設に入れるだろ?」
「うん」
「その手配をこいつがやるから」
「はい!」
「へ」
嬉しそうな彼女に娘の美紅はちょっと、と父の肩を掴んだ。
「……お父さん。どういう事?」
「まりやは親戚なんだよ」
「美紅ちゃん、私が説明するね」
白いワンピースの長い黒髪。清楚な彼女は幼い頃。父と一緒にここで暮らしていたと笑った。
「だからお爺さんにもお世話になったの」
「それって従姉妹とかですか」
「ええとね。私は美紅ちゃんのお爺さんの」
「やめとけ。説明してもわかんないから」
それより飯にしてくれと、会社から帰ったままの父はまりやに言った。いつもは父が支度をしているため美紅はまじでびっくりした。
「良いの?お客さんなのに」
「良いから。お前も着替えてこい。それとな」
まりやはしばらくこの家に住むからと父はネクタイを緩めた。
驚くばかりの美紅はとにかく自室で着替え、彼女と一緒にキッチンに立った。
髪を結び持参したエプロン姿でキッチンに立つまりやは色白美人だった。幼い頃、両親が離婚し母を知らぬ美紅はドキドキしていた。
「ふふ。大丈夫よ。私は美紅ちゃんのお母さんじゃないの」
「そーなんですか」
薬指の指輪のまりやは、野菜を洗っていた。
その濡れた細い手には火傷の跡があった。
「それ」
「ああ?これ?私はおっちょこちょいなの」
そんな彼女は楽しそうに話を続けた。
「今回はね。昔お世話になったから私が協力したいって頼んだのよ」
「そーなんですか、って。そういえばうちの爺ちゃんは?」
ディケアから帰ってない祖父は、今日はショートスティになっているとまりやは説明した。
京平は仕事で出張がある事と、美紅が受験生という事でまりやに相談していたと言った。
「私は未亡人なの。それにお爺さんの件が済んだら帰るからね」
「わかりました」
「……飯は」
「あ?もうすぐです!」
風呂からでた父は、いつものソファに座っていた。その時、美紅は驚く光景を見てしまった。
「京平。髪が濡れてるわよ。ほら」
「うるせ」
父の髪を優しく拭くまりやに、美紅は固まってしまった。
「……何してんの、お父さん」
「ほら。まりや。お前が言え」
「あら?そうだったわね」
まりやは美紅を見て笑った。
「私はね。昔から京平のお世話係なの」
その夜。食事を終えた美紅は自室のベッドで悶えていた。
……なんなの?お父さんの甘えっぷりは?
硬派だと思っていた父を甲斐甲斐しく世話する謎の美女。
美紅は悩みながらもその夜は眠った。
翌朝。
味噌汁の匂いで起きた美紅は学校に向かった。
彼女は昨日の衝撃的な出来事を仲良しの莉子に話した。
「やばくない?それって再婚相手じゃないの」
「そうかも」
こんな話をしてもドキドキしているだけの美紅は、彼女がいる家に帰って来た。
午前授業で帰って来た美紅は、玄関前でまりやが男と話し込んでいるのを目にした。
美紅はそれを勝手口から回りこっそり聞いていた。
「ですから。パンはもう要りません」
「でも契約ですので」
するとまりやは男にお金を出した。
「今回は支払いますけど。実はね。うちはパンを買った形跡がないんですよ」
「そんな事ないです。毎度、お渡ししてますよ。食べたんじゃないですか」
「へえ。食パン3巾を?一人で」
するとパン屋の男はムキになって話した。
「ここのお爺さんは、いつも友達にあげていましたよ」
「そうですか……いや実はですね。家の現金がいつの間にか減っているですよ」
エプロンまりやの声に、移動パン屋の男の顔色が変わった。
「これから警察に届けるところなんですけど。あなた、何かご存知?」
「え?じ、自分は」
「その友達とやらを教えていただこうかしら?」
やんわりとした彼女の声に、無理やりパンを買わせていた男は知っている事を白状した。
「囲碁仲間ね?わかりました。あのね」
「は、はい?」
まりやは美しい微笑みで彼を見つめた。
「高齢者にパンを押し売りするのはもう止めなさい。それにね。販売するなら」
まりやは彼に何か知恵を授けて帰して行った。
「あら?美紅ちゃん。お帰り」
「た、ただいまです」
「見られちゃったわね」
恥ずかしそうなまりやは美紅がお昼を食べた。
「え?お爺ちゃんてそんなに買い物していたんですか」
「そうなのよ」
判断力がない源太に悪い奴が
「買った物を持っていく人もいるのよ。だからわからなかったのね」
「許せない」
「大丈夫。鉄槌を喰らわすから」
そんな彼女に美紅はドキドキで父との関係を尋ねた。
「ああ。私達は本当に一緒に育ったのよ」
つづく