第2話 父は王子様
文字数 1,580文字
まりやの親は多忙であったので彼女はこの親戚の家で育ったと明かした。
「小学校も中学も京平と一緒なの」
「そんなにですか?」
「そうよ。ずっと一緒よ」
本家の長男の父。まりやは彼に尽くすのが当然だと思っていたと話した。
「だから、つい」
「あの。こんなこと言うのも変ですが」
恋人関係にならなかったのか、と美紅は思わず聞いてしまった。
「ならない。よくそう聞かれたけどね」
「そう、ですか」
「それよりも美紅ちゃん。進路とか決めたの?」
なぜか話しやすい彼女に美紅は高校への悩みを打ち明けた。まりやも息子がいるので通って来た道だと助言してくれた。
「高校の先の進路を考えないとね。夏の高校説明会に一緒に行きましょ」
「え、でも」
「良いのよ。どうせ私が誰かわからないし!」
どこか浮かれている彼女が心配だったが、実に頼りになる気がした。
こんなまりやは夜、三人で食事の時に電話の話をした。
「なんかさ。PTAの人でさ。夏のバザーがどうのこうのでさ。出てください!って怒っていたからさ。行くって言ったよ」
「俺は知らんぞ」
「まりやさん、大丈夫ですか?」
一度もPT A活動をしていないため役員に睨まれているはずだと美紅が心配したが、まりやは首を横に振った。
「問題ないわ?だって手伝いに行くんだもの」
「でも」
「ほっておけ。こいつは大丈夫だ。それよりお代わり!」
「はいはい」
俺様の父に驚く美紅は、バザー当日も驚かされていた。
「なんかさ。たくさんお客さんが来てるみたいだよ」
保護者しか来ないようなバザー。しかし体育館にはなぜか高齢者がたくさん集まっており、品を買っていった。さらに移動パン屋もあり美紅の胸はバクバクしていた。
そんな中、美紅の耳にはすれ違った男子生徒の声が入った。
「やばくない?あの占いの人」
「誰の親だろうね」
これに嫌な予感がした美紅は、体育館の端にあった特設コーナーを目指した。
黒いベールをつけている女性は、聞き覚えのある声だった。
「あなたの悩みは」
「不動産投資についてです。今の株を」
「……視えます。あなたの未来が」
中年男を前に水晶玉を見つめる黒いベールを被った彼女は語り出した。
「タバコ、お酒に溺れ、心臓が弱っています」
「え」
「このままでは早死にします。まず痩せること。お金があっても何もなりません」
メタボの男は滝のような汗を流した。そんな男に占い女は追い討ちをかけた。
「早起きをして神社にお参りしなさい。運が上がります。次!」
健康指南をしただけの女は、美紅が知っている女生徒を座らせた。彼女は見た目は可愛いが、ネットで悪口をいう女で美紅も被害に遭っていた。
「私。モテたいんです」
占い女はうなづいた。
「お綺麗だと思いますが」
意地悪女子は首を横に振った。占い女はふっと微笑んだ。
「では口から綺麗になりましょう。『人の悪口を言わない』これを守るだけで素敵な彼氏ができます」
「簡単ですね!」
「簡単?そうですか。では、挑戦して下さいね……」
ベール越しの彼女はどこか黒い笑みを見せていた。
やがて客が途絶えていたので美紅はそっと彼女の元に進んだ。
「やっぱりまりやさん?」
「だって。バザーの売り上げがしょぼいっていうんだもの」
一回300円の占いは結構繁盛していた。するとこの場に老人が話しかけて来た。
「まりやさん。我々はこの辺で」
「ああ、お疲れ様」
爺さん達はそう言って撤収していった。美紅はこれを尋ねた。
「さあ。源太さんにした事をこれでチャラにしたいんじゃないの?」
「あの人達がお爺ちゃんに?」
パン以外にもお金を使わせていた老人達は、償いを兼ねてバザーに来たようだと彼女は言った。
こうしてバザーは終わった。
「それではみんなに報告する!今年のバザーは過去最高の売り上げだったそうだ」
担任教師の話を美紅は黙って聞いていた。
こんなまりやと過ごす夏休みは始まったばかりだった。
つづく
「莉子ちゃん。どうしたの?」
「小学校も中学も京平と一緒なの」
「そんなにですか?」
「そうよ。ずっと一緒よ」
本家の長男の父。まりやは彼に尽くすのが当然だと思っていたと話した。
「だから、つい」
「あの。こんなこと言うのも変ですが」
恋人関係にならなかったのか、と美紅は思わず聞いてしまった。
「ならない。よくそう聞かれたけどね」
「そう、ですか」
「それよりも美紅ちゃん。進路とか決めたの?」
なぜか話しやすい彼女に美紅は高校への悩みを打ち明けた。まりやも息子がいるので通って来た道だと助言してくれた。
「高校の先の進路を考えないとね。夏の高校説明会に一緒に行きましょ」
「え、でも」
「良いのよ。どうせ私が誰かわからないし!」
どこか浮かれている彼女が心配だったが、実に頼りになる気がした。
こんなまりやは夜、三人で食事の時に電話の話をした。
「なんかさ。PTAの人でさ。夏のバザーがどうのこうのでさ。出てください!って怒っていたからさ。行くって言ったよ」
「俺は知らんぞ」
「まりやさん、大丈夫ですか?」
一度もPT A活動をしていないため役員に睨まれているはずだと美紅が心配したが、まりやは首を横に振った。
「問題ないわ?だって手伝いに行くんだもの」
「でも」
「ほっておけ。こいつは大丈夫だ。それよりお代わり!」
「はいはい」
俺様の父に驚く美紅は、バザー当日も驚かされていた。
「なんかさ。たくさんお客さんが来てるみたいだよ」
保護者しか来ないようなバザー。しかし体育館にはなぜか高齢者がたくさん集まっており、品を買っていった。さらに移動パン屋もあり美紅の胸はバクバクしていた。
そんな中、美紅の耳にはすれ違った男子生徒の声が入った。
「やばくない?あの占いの人」
「誰の親だろうね」
これに嫌な予感がした美紅は、体育館の端にあった特設コーナーを目指した。
黒いベールをつけている女性は、聞き覚えのある声だった。
「あなたの悩みは」
「不動産投資についてです。今の株を」
「……視えます。あなたの未来が」
中年男を前に水晶玉を見つめる黒いベールを被った彼女は語り出した。
「タバコ、お酒に溺れ、心臓が弱っています」
「え」
「このままでは早死にします。まず痩せること。お金があっても何もなりません」
メタボの男は滝のような汗を流した。そんな男に占い女は追い討ちをかけた。
「早起きをして神社にお参りしなさい。運が上がります。次!」
健康指南をしただけの女は、美紅が知っている女生徒を座らせた。彼女は見た目は可愛いが、ネットで悪口をいう女で美紅も被害に遭っていた。
「私。モテたいんです」
占い女はうなづいた。
「お綺麗だと思いますが」
意地悪女子は首を横に振った。占い女はふっと微笑んだ。
「では口から綺麗になりましょう。『人の悪口を言わない』これを守るだけで素敵な彼氏ができます」
「簡単ですね!」
「簡単?そうですか。では、挑戦して下さいね……」
ベール越しの彼女はどこか黒い笑みを見せていた。
やがて客が途絶えていたので美紅はそっと彼女の元に進んだ。
「やっぱりまりやさん?」
「だって。バザーの売り上げがしょぼいっていうんだもの」
一回300円の占いは結構繁盛していた。するとこの場に老人が話しかけて来た。
「まりやさん。我々はこの辺で」
「ああ、お疲れ様」
爺さん達はそう言って撤収していった。美紅はこれを尋ねた。
「さあ。源太さんにした事をこれでチャラにしたいんじゃないの?」
「あの人達がお爺ちゃんに?」
パン以外にもお金を使わせていた老人達は、償いを兼ねてバザーに来たようだと彼女は言った。
こうしてバザーは終わった。
「それではみんなに報告する!今年のバザーは過去最高の売り上げだったそうだ」
担任教師の話を美紅は黙って聞いていた。
こんなまりやと過ごす夏休みは始まったばかりだった。
つづく
「莉子ちゃん。どうしたの?」