モノローグ1

文字数 912文字

 渋谷道玄坂を登り路地を入った所にあるラブホテル。潔癖症で部屋に他人を入れない彼との情事は、いつもこのアメリカンテイストなホテルだった。
 フルフラットのワンルーム。そのフローリングには本格的なスロットマシンや茶色い革のソファが贅沢に置かれていた。壁にはダーツボードやネオン管でできたお酒の看板が落ち着きなく飾られていた。
 クイーンサイズのベッドに、二人で入れるバスタブ。昭和の全盛期(バブル)に作られた広くてレトロな部屋も、今では安価で3時間使えた。

 彼が果てた後。私はその胸に頬をあて余韻に浸っているようにして、彼のクールダウンを待っていた。やがて私のチョーカーベルトをいじっていた彼の手が、私の顎を持ち上げお礼のつもりのキスをすると完了の合図。私は彼の腕の中から離れシャワーを浴びにベッドを降りた。

 私が部屋に戻ると、彼はベッドで煙草を燻らしていた。ショーツはクロッチが濡れているからまだ履かない。男女の温度差を象徴するような寒い冷房を我慢して、そのままアメニティのガウンを着こんでソファーに置かれたビニール袋に手を伸ばした。コンビニで買った缶コーヒーを取り出すと、サイドテーブルで彼が使っている灰皿の横に置いた。
 私は革のソファーに座りサンドイッチを口に運んだ。食べたい訳でも空腹な訳でもなかった。ただ、この部屋にいる残りの時間を埋めたいだけだった。

 いつものように彼からの連絡でハチ公で合流した。会話もそこそこに坂の途中のコンビニで買い物をしてチェックイン。
 求められるのは嬉しいけれど、毎回彼のタイミングで呼び出されるのは嫌だった。だから次の約束が欲しかった。でも、そんな言葉は言えないまま、いつも彼に向けた背中から染み出て消えていった。

 彼の目的は果たしたのだから、もう帰ってもよかった。なのにサンドイッチを買って来たりして、変化を期待してこの場から離れられなかった。
 彼が煙草を消してコーヒーを飲み干すタイミングで、私はサンドイッチを食べるのをやめる。液晶テレビから甲高い喘ぎ声が聞こえると、私はうがいをしてベッドの下から布団に入り込んだ。そしてもう先を濡らしている彼の芯を両手で包み込むと、凹凸を探るように舌を絡めた。
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