第2話 初めまして、姉の代理で挨拶

文字数 1,864文字

 
 2脚で立つ机を応援したくなる。そういう机には人間と同じようにつま先とかかとに似たような構造が存在する。だから机というものが人間に近づいているような気になる。まさかな。
 私は2脚で立つ机と2足で立つ姉を応援している。座っている姉も好きだが、立っている姉の方がちょっぴりだけ勝る。立っている方がなんだか成し遂げてくれそうだから。
 姉は大学で映画サークルの一員をやっている。私はサークルというものが何なのかあまり理解していない。
「大学のコミュニティだよ」
 姉は教えてくれたが、コミュニティかコミニュティか正確に聞き取れなくって悲しくなったことを覚えてる。悲しいで思い出したんだけど、一口○○っていう食べ物を二口に分けて食べた時って、作り手とのすれ違いが生じた気がして悲しくなっちゃうよね。私の口って小さいから、無理して一口で食べるのは気が引けるというか。だけど、無理したら一口でも食べられることが問題なんだ。前世は口が大きかったのに、どうしてこうなったんだろう。

 映画サークルの話を続けた方がよさそうだね。
 姉が初めて作ったショート映画を私も見せてもらった。
 ちょっと姉って書くの止めていいかな。普段姉って使わないのに文章だからってかしこまっちゃった。
 仕切り直して、お姉ちゃんは映画サークルの奇術師って呼ばれている。あれ、仕切り直したら変なところに行ったぞ。今の奇術師のくだりは忘れてもらって構わない。当然忘れなくてもいい。忘れようと頑張って、途中で投げ出してもいい。途中で投げ出したそれが私に当たってもいい。故意じゃなければ。故意だったら少し悲しいかも。悲しいで思い出したんだけど、一口○○っていう食べ物を二口に分けて食べた時、作り手の一口で食べれるようにするための企業努力を蔑ろにしたみたいな、自分の意地悪さを指摘されているようで悲しくなっちゃうよね。私の口って小さいから。分かってるって信じてるけど、小食アピールじゃないから。
 何の話をしてたっけ?

 ああ、映画の話か。実は私、映画館に行ったことがないんだ。映画館に行ってない場合は人生の何割損してるって言われるんだろう。今のところ私は34割損しているらしい。私と仲のいい松島は19割。松島が飼っている猫も19割のはず。松島がカバを飼っていると仮定すると、そのカバも19割損している。
 私は損を塗りつぶすような生活はしたくない。それはきっと松島のカバも一緒だろう。聞いたことはないけど。得を貪欲にかっさらっていきたい。

 それで、お姉ちゃんの映画を観るのは初めてだったから、ワクワクしてたんだけど、それはもう私の理解の範疇外で、私は思わず奇声を上げた。奇声さえ上げておけば、ぎりぎりお姉ちゃんと同じラインに並べると思ったけど、お姉ちゃんはコンビニに出かけてた。薬局かもしれない。
 正確なことはお姉ちゃんとコンビニ店員と薬局の店員のみぞ知る。母も知るかもぞ。
 
 映画の雰囲気はデスゲームだったが、最後まで登場人物たちは皆生きていた。ネタバレ注意って言うの忘れてた。とにかく、冒頭で、囚われた主人公たちにゲームマスターからミッションが通達される。
「ダヂヅデドで元気が出るあいうえお作文を作れ(固有名詞不可)」
 これが一つ目のミッション。主人公は熱血キャラだから、周りの皆が諦めムードでも、決して諦めない。
「大丈夫、きっと大丈夫だ」
 「ダ」で作文を作り始める。でもその後気づいちゃうんだ。「ヂ」から始まる言葉なんてほとんどないことを。そこから、主演俳優の顔はみるみる内に青ざめていく。主演俳優の側にいた眼鏡かけたいかにも賢そうな男は、最初からそのことに気づいていたから無様に足掻くことをしなかったという旨を話し、ヒロインみたいな人が、そんな言い方ないんじゃない、とか言ってた。
「ヂ、は後回しにしよう。ヅ、ヅ、図工、はズか。頭巾、もズか」
 もう主演俳優を見ていられなかった。
「もう十分。あなたはよく頑張った」
 ヒロインは項垂れる主演俳優に声をかける。そんなに頑張っていない気もしたけど、ヒロインから見てそうだったら、私の知らない物語があったのかもしれない。
 
 この先は有料になるかな。私にじゃなくお姉ちゃんにお金あげて。
 
 結末だけ言っておくと、ゲームマスターは実はボードゲームマスターだったんだ。嘘はついてないって言い張っていた。数種類のボードゲームの大会で優秀な成績を収めたことを背後のトロフィーが物語っていた。
 
 私はこんな映画を作るお姉ちゃんを応援する。よかったら君も、どう?
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