第4話 親友の松島と私

文字数 1,793文字

 
 ちと、メッセージ性をねじ込んでるとか、ねじ込んでないとか。
 そんなことよりも私はもう少し私という人間が何者であるかを書き表した方がいいのではないかと考えている。
 最近の出来事を語ることで、私の輪郭に迫っていきたい。
 
 これは人によっては最近の話。私は松島とファミリーレストランで向き合っていた。
 松島というのは、良く言えば私の分身、悪く言えば私の右腕だ。
 我々二人には期末試験が近づいてきていた。私の感覚では近づいているのは私たちであり、期末試験はそこにあるだけだ。松島の感覚は分からないため、最悪私が期末試験に近づき、その期末試験が松島に近づこうとしているという構図になる可能性もある。もし、そこから期末試験を取ろうものなら私は松島のストーカーだ。そう考えると、期末試験を取らずとも、私は期末試験の陰から様子を伺うストーカーなのではないか。しかし、一方で私は松島のストーキングをする期末試験を捕まえようとする警察官という見え方もできる。ならば喜ぼう。一気に公務員だ。

「金川、期末の勉強する気ねえだろ」
 私の仮名は金川であり、松島は口が悪い。街の不良もびっくりだ。
「勉強する気にさせてみなよ」
 松島を挑発してみる。
「私の邪魔さえしなけりゃ、勉強してもしなくてもどっちでもいいよ」
「どっちでもいいなら勉強しようっと」
「ああ、するんだ。ちょっと見直した」
「見直しは試験の問題全部解き終わってからにしてよね」
「黙れ」
 
 いかがだろう。この一連の会話から私という人間がどのようにして生まれ、育ち、今に至るのかを理解してもらえただろうか。
 
 そんなことを話している間に、注文していた料理が運ばれてきた。可愛いロボットが私たちのテーブルの横に止まり、私の頭上辺りを見つめている。私は幸せな気分になり、この時間が永遠に続けばいいと思った。
「早く取れよ」
 松島はロボットの胸部と腹部から、届いた私と松島の分の皿を取り出した。ロボットは向こうへ行ってしまう。
 松島のことを優しいと思った。私とロボットが相対していた時間は確かに幸福だった。けれど、このまま60年経った後、ロボットが遠くに行ってしまったら、残された私は途方に暮れ、野原を彷徨するだろう。それは楽観視しすぎか。このファミレスが60年後もある保証はない。このファミレスを取り壊すことになった場合、私にファミレスの破片がぶつかって痛い思いをするかもしれない。
 松島は私にそんな辛い思いをさせないために、私とロボットの関係を絶ち切ってくれたのだ。苦しかっただろうな。
 ありがとう。

 ロボットが店から出ていくのを見届けて、私は松島に向き直った。
「あのロボット可愛いな」
 私が言ったのかと思ったが、私の口は動いていなかった。まだ腹話術の可能性は残されている。松島と私の感想が同じことは珍しい。どれくらい珍しいかっていうと、今から譬えを考えるから、お茶でも沸かして待っといて。
 やっぱり思いつかないから言わない。
「どれくらい可愛い?」
「目に入れても痛くない位」
 絶対痛いのに強がっている松島は可愛かった。
「入れるなら鼻にしなよ」
「鼻はないだろ」
 松島はコンタクトレンズを装備しているから、目の中に何かを入れることに私ほど抵抗がないのかもしれない。私だったらどこに入れるか考えて、そんな答えの出ない問いを考えても無駄だと思い直した。
 松島は勉強を始めてしまった。私はスープを一口飲んでから、天に向かって大きく腕を伸ばした。伸びをすると一仕事終えたかのような満足感が襲ってきて、もう勉強を十分した気になれた。
「私寝るね」
「何しにきたんだよ」
 その後は本当に寝てしまった。寝たくて寝たんだから、しまった、なんておかしいんだけどね。
 夢では、松島とロボットが手を繋いで踊っていた。それを私は心から祝福していた。さらに目からは涙が溢れてきた。涙が落ちる先にジョッキを置いといたらすぐにいっぱいになってしまった。すぐに新しいジョッキと取り換えてくれたから良かったけど。その時、あの配膳ロボットには手がついてなかったことを思い出して、これが夢だと気づき、そのまま瞼を開けた。
 私の横には配膳ロボットが停まっていた。
「ハッピーバースデー」
 松島は私にそう言って拍手している。本当にワクワクさせてくれる相棒だこと。
 興味深いことに、私の存在は松島なしには語れないのだ。
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