エンディング

文字数 357文字

それと同時刻、ある作家が息を引き取った。海を臨む病院での出来事だった。
その日は雲ひとつない快晴で、きらきらと光る海風が、未だ残る春の空気を運んでいた。

静かな午後だった。

誰ひとり開けた覚えのない窓の隙間から、白いカーテンを揺らして、海の匂いが部屋に迷い込んでいた。ベッドの上、手元に残された手帳のページがぱらぱらと開かれる。隙間を惜しむように詰められた文字は、後へと進むにつれて歪み、惑い、行く先を見失ったように頼りなく揺れていた。
一際、大きな風吹き込んだ。まるで手帳を読み終えたように、パタンと裏表紙が閉じられた。
カーテンが勢いよく開く。飾られてから随分と経つ、色褪せたスイートピーの花弁が、揺られて千切れて、窓の外へと躍り出た。


うつらうつらと微睡んでいた日々の最期、その作家は、僅かに微笑んだように見えたという。
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