第2話 危ない時空転移装置

文字数 1,525文字

 時空転移装置の窓から星が見えていた。ヤバいよ。この装置、壊れてんじゃないの。あたしの勤め先「日本昔話再生支援機構」の時空転移装置の窓からは、星なんか見えない。無数の光の筋が猛スピードで走り去るのが見えるだけだ。星が見えてるなんて、絶対におかしい。
 しかも、この装置は、スタートしてからガタガタ揺れ通しで、あたしは頭をシートのヘッドレストに打ち付けて、目から火花が散りそうだ。
 
「おい、ミタロー、この時空転移装置、壊れてないか?」
あたしは、隣に座ってる「サポーター」のコレ・ミタローに訊く。あたしが属する「昔話支援機構」では、クローン・キャストは全員が決まった役を持って、日本の「むかし、むかし、あるところに」乗り込む。
 ところが「日本怪談再生支援機構」では、決まった役を持たない「サポーター」が怪談の進行を助けるとかで、今回の『番町皿屋敷』のサポーターが、あたしの隣のコレ・ミタローってわけ。ひょろっとしたキュウリみたいで、ガッツとも腕力とも無縁そうな奴だ。こいつがどういう助けになるのか大いに疑問だが、「怪談再生支援機構」の時空転移装置のことは、こいつに訊くしかない。

「星が見えてるし、ガタピシ滅茶苦茶ゆれるじゃねぇか」
あたしが続けると、ミタローが驚いた顔で
「えっ、時空転移中は、いつも星が見えてますよ。『昔話再生支援機構』さんの時空転移装置では、窓の外に違ったものが見えるんですか?」
と訊き返してきた。
「時空転移中は、窓の外には無数の光の筋が矢のように飛んでくんだ」
「そうなんですか? 星が見える方がロマンチックでよくないですか?」
「ロマンを楽しんでるうちに暗黒宇宙に飛んじまったら、どうすんだ?」

「小梅さん、安心してください。うちの時空転移装置が誤って暗黒宇宙に飛ぶ確率は、たった5パーセントです。この10年間で2分の1に減らしたんです」
ミタローが自慢そうに言う。
「10年前は、100人派遣したら10人が暗黒宇宙に消えてたってか!」
「うちの時空転移装置は2人乗りが標準ですから、100人送ったら20人が消えてた勘定になります。それが今は10人に1人です。安心して乗れます」
「なにが、安心だ! 『昔話再生支援機構』の時空転移装置の事故率は0.3パーセント。暗黒宇宙に飛ばされるのは、1000人に3人だけだ」
「そうなんですか」
 と関心したように言ってから、すぐに
「でも、小梅さんとボクに限って言えば、『事故って暗黒宇宙に飛ぶ』か、『無事に地球に着く』の2つに1つ、50パーセントです。それは『昔話再生支援機構』さんの時空転移装置でも同じでしょ」
 と言い返してきた。
 こいつの論理は変だ。あたしが学校で習った確率論とは違うはずだ。だけど、数学に弱いあたしは、こいつの間違いをズバリ指摘できない。下手なことを言ってバカにされたくないから、黙る。

 ともかく、この時空転移装置は乗る前に外から見た時からイヤな感じだった。
「これ、溶接製だろ」
急にミタローが顔を輝かせた。
「気がついてくれましたか。ラムネ星でも5本の指に入る超一流の溶接工しか、うちの時空転移装置を作れないんです。だから、一台つくるのに1年近くかかるんですよ」
「あのな、ミタロー。溶接は、ラムネ星では前世紀の技術だ。『昔話再生支援機構』の時空転移装置は、全部、特殊合金を3Dプリントして作ってる。だから、全体が均質で、ガタピシしたりしない」
「そうなんですか」
 
 ミタローは、自分に都合の悪いことを言われると「そうなんですか」と受け流すと見えた。結局、あたしが安心できる材料は何も得られなかった。むしろ、ますます不安になった。これ以上現実を直視できなくなったあたしは、眠ることにした。






 
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