第4話

文字数 542文字

「ユウカ! ユウカ!」

 必死に呼びかけたが、ユウカに気づく様子はない。
 それはそうだ。『リアル』世界では、俺の言葉は誰にも届かない。
 俺はふと思いつき、特殊能力『念力』の発動シークエンスを開始した。
 ダメもとだが、ほかに何ができる?
 全意識を引っ掛かってる枝に集中させると、枝がしなり、俺はユウカのそばに着地した。

「あっ、ペンギン!」
 ユウカが俺を拾い上げた。
 こちらに向けた顔は小憎らしいくらい元気いっぱいに見える。
 俺はこの十数時間、緊張と呆然の間を行ったり来たりしてたというのに。

「あれ? 銀一様のアクスタ? そういえば、今日は珍しくバッグに付けてなかったよね」
 アーちゃんが不思議そうに訊いた。
「いんや。付けてたよ。いつも付けっぱなしだし」
 ユウカが当然のことのように言いきった。

 信じがたいことだが、ユウカは昨日、俺を落としたことに、まったく気づいてなかったらしい。歩道で見つけて、たった今落ちたと思ったのだろう。

「ちょっと貸して。付け直せるか見てみるね」
 アーちゃんが手を差し出し、ユウカがその手のひらに俺を置いた。

「はいよ。それもう、アーちゃんにあげる」

「え?」
(え?)

「いま私、別のにハマってるからさ」
 ユウカは事もなげに言った。

 俺の意識は、そこでぷつりと途絶えた。
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