第21話:工場の火災と危ない人の夜逃げ

文字数 1,900文字

 すると、完全に臭いの元が乾燥炉だとわかり離れの社宅に住んでいる山下先輩をたたき起こした。そして、乾燥炉の前に行くと、山下さんが、こりゃまずいと言った。乾燥し終わった商品の内部が燃え出していると語った。以前にも1回、この工場で、同じようにして火災が起きたと、不安げな口調で語った。

 どうしましょうかと、村下が聞くと、山下さんが、俺が、電話して工場長と相談して対応するから君は、乾燥炉の前で様子を見ていてくれと言われ了解した。10分して山下さんが、車で、工場長を迎えに行ってくると言い、すぐ出かけた。その後、15分程で、工場長がやって来ると、少しして、消防車が、数台、工場にやってきた。

 その頃には、乾燥炉の鋼鉄製の分厚い扉の外側が、真っ赤になって、とても、近くに立っていられたい高温になった。到着した消防車が、近く建物への延焼防止のため放水し始めた。30分位して、1台の消防車を残して数台の消防車が、帰っていった。工場長が、消防署の人に、燃えているのは、アルミ粉末と酸化鉄だと打ち明けた。

 その温度は、1200℃~1500℃だと告げた。そのため鎮火するまで、何もできないと、話した。4年前の火災の時、乾燥炉の扉を5センチの特殊合金にしたので溶けて落ちて扉が壊れて 空気、酸素が中に入ることはないと説明。それを見届け鎮火するまで寝ずの番をしていますので、ご安心くださいと伝えた。

 消防署の上司の人が、苦虫をかみつぶしたような苦々しい顔をして、こんな危ない仕事をされては困る。もう1回、同じような火災を起こしたら、即刻、この土地から出て行ってもらいますからねと真っ赤な顔をして吐き捨てる様に言った。それに対し誠に申し訳ありませんでした。と山下さんも工場長も平謝りした。

 乾燥炉から近い、風呂場の近くで、交代交代で、寝ずの番をすることにした。やがて、空が、明けてきた。その後、8時に数人の工場の職員が出てきた。そこで、今日は、事情があって、臨時休業にすると工場長が、職員に行って、帰ってもらった。日給月給だったので、給料は出してもらえるのでしょうねと言うので、出すと工場長が答えた。

 その後、発送課の課長、総務課の課長と地元の坂井営業課長を工場長が集めて会議を始めた。その日の午後になっても依然として、乾燥炉の近くは、とても熱くて、近寄れないほどだった。そして4日目、やっと温度が下がり乾燥炉を空けると、商品を載せていた鉄の台車が、溶けて一部、鉄の塊になっていた。

 その様子から1200℃を超える超高温であったことが、容易に推測された。結局、乾燥炉の中身を全て、外に出すことができたのは、発見後5日目。その後、工場の設備の改修工事の費用を見積もってもらうために15キロ離れた町の鉄工所の人に費用と修理日数を調べてもらった。それによると、費用が3千万円、修理には、1週間かかる事が判明。

 そこで、2月中旬から工事を開始してもらった。3月から以前通り、仕事を開始できた。しかし、これからは、工場の人が、帰る時には、乾燥炉を止めて商品を外に出して帰る手順にした。そのため仕事の効率が下がるが、安全を考えて、この方法を取らざるを得ないと、本社の社長と工場長などの会議で決まったそうだ。

 その後、危ない兄さんが、工場の近くの安アパートで住み、工場でも問題も起こさずに暮らしていた。それどころが、重たいものを運んだり、力仕事に精を出し勤務態度も良かった。ところが、6月下旬、村下の社宅に来て、話を聞いてくれと言われた。そこで、社宅の部屋に入れて、話を聞くと、昔の仲間が、俺を探しに来てるらしいと告げた。

 彼らに見つかると、下手すると、殺されるかもしれないから、俺は、その前に逃げる。俺をこの工場に採用させてくれた、あなたに、借りがあるから、教えておくといった。でも、誰にも、言わないでくれと依頼した。あなたに絶対迷惑かけないから頼むと、深々と頭を下げた。男同志の約束だから内密にしておいてくれと言い帰っていった。

 そして、その年の9月中旬、彼が、彼の外車と共に煙の様に消えてしまった。
「その失踪事件は、『やっぱりなー』程度で済んだ」
 しかし、その月の月末、ガソリンスタンドや飲み屋から彼のツケの分の取り立て書類が届いた。飲み屋が、1ケ月分で3万円、ガソリンスタンドは、1ヶ月分で3万円、合計6万円の請求だった。

 岩下は、工場長に相談して、彼が、9月中旬退職だから半月分の給料と夏のボーナスを支給しないで済むので、その分を払う事で、解決できた。こんな、小説になりそうな事が、実際に起こるとは、夢にも思わない村下だった。 
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