第3話

文字数 1,143文字

ー私もはやく枝を探さなくちゃ。

木乃香は『ブランチ・ブランチ』を
やってみたくてたまりません。
何より、お父さんに作ってあげたい。
私1人で何でも出来るって見せたい。

木乃香のお父さんは大学教授で
何かの研究のためにおととい
この街の大学にやって来たばかり。
今日は朝から楽しそうに学生さん達と
キャンプファイヤーを作っています。

お母さんと弟の奏太は
まだ田舎のおじいちゃんの家です。

お母さんは夏に弟を産んでから
急に大変になりました。
あんなに綺麗好きだったお母さんが
今はちょっとボサボサで
おばあちゃんにお世話してもらってる。
だから木乃香は思いました。

『私がお父さんのお世話をする!』って。

そうしたらお母さんも安心して
この街に来られるはず!
私がこっちのこと何でも出来たら
お母さんきっと楽になる。
お母さんきっと前みたいに笑ってくれる。
お母さんきっと…

木立の間は赤や黄色の綺麗な葉っぱや
どんぐりなんかは落ちていますが
木の枝は皆んなが拾った後で
なかなか見つかりません。

ガサガサ探して
ガサガサ探して
ガサガサ探して…

ないなーないなー
ないなーないなー
ない…
ない、ない、ないよ…
ないよぉどうしよう…ないよぉ

いつの間にか木乃香の目からは
涙がポタポタポタポタ

こんなんじゃダメ!
もっと探さなくっちゃ!
慌てた木乃香が走り出そうとした時

「ここから先は危ないわ」
ふんわり木乃香を抱き止めたのは
とっても素敵な匂いのする品のいい
おばさん?お姉さん?

「でも私枝を探さないと…」
「あら、もう1本持ってるじゃない?」
「これはパパので…」
「じゃあもう大丈夫よ」

そう言われて
木乃香はちょっとムッとしました。
私だって食べたいもん。

でもその女の人はウフフと笑って
「あなたの枝はもうあるわ」
そう言うと、そっと耳元で囁きました。
「ちゃんともらってあげてね。
それが淑女のたしなみと言うものですよ」

え?しゅくじょ?てナニ?
キョトンとしている木乃香から
その人がそっと離れると…
目の前に圭介が立っていました。

「急にいなくなるんだもん。探したよ!」
圭介はハアハア言っていましたが
「これ、キミに…コノカちゃんに!」
グイッと枝を差し出しました。

「えっ?そんなの悪いよ。
だってそれ売り物で、競争してるんでしょ…」

木乃香があわてて断ろうとすると
真っ赤だった圭介の顔は
みるみるしぼんできいます。

その時急に木乃香には
女の人が言った事の意味がわかりました。

これを素直に受け取るのが
私にとっても圭介君にとっても
うれしい事なんだって。
そして、
自分1人で全部やる必要なんて
全然ないんだって。

木乃香はふんわり笑って言いました。
「ありがとう!圭介くん」

  これがシュクジョのタシナミかぁ…。

木乃香は助けてもらったのになんだか
大人になったような変な感じがして
くすぐったそうに笑いつづけました。
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