第4幕

文字数 1,426文字





 その日の放課後、校内の全ての教室に貼り出された手描きのポスターには、ペンタクルのエースの絵柄の他に、次のような名文句が走り書きされていた。

 “ペンタクルのエースは逃亡中! 奴らを仕留めるのが、きみの使命だ!”



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 ペンタクルのエースの捜索を開始してから、十日ほどが過ぎた頃だった。

 午後の最後の授業が終わり、生徒達が帰り支度を始めている教室へ、真澄が晶を訪ねてきた。

 今では左頬の傷も癒え、殆ど目立たなくなっていた。

 真澄は、後ろ手に何かを隠し持っているような様子で、晶の机の側までやってきた。

 そして、自分の顔のすぐ横に、そのカードをぱっと登場させたのだった。

 「じゃーん!」

 「…‥あっ! ペンタクルのエースじゃないか!

 とうとう見付かったんだな」

 「その通り。

 全校生徒で包囲網を張ったおかげで…‥っていうのは冗談で、種明かしをすると、生徒会長がずっと持っていたんだ。

 彼の気持ちの整理がつくまで、お守り代わりにね。

 詳しいことは話せないけど、ご両親の離婚問題でずっと悩んでて、誰にとっても最善の道は何なのかを知りたくて、タロット占いが得意な僕のところに、相談に来たっていうわけなんだ」

 「へーえ…‥。そうだったのかあ。

 …‥でも、良かったじゃないか。

 これでまた、占いを再開出来るな」

 ところが、真澄は何故だか困惑した表情になった。

 「うん…‥。それは、まあ、そうなんだけど…‥。

 実はさ、新しいタロットカードを一組、買うことにしたんだ」

 「ええっ!? どうしてさ?

 ペンタクルのエースは戻ってきたじゃないか」

 「そうなんだけどさ…‥。

 何でかって言うと、生徒会長が来月から、全寮制の学校に転校することにしたって言うから、新しい環境に旅立つ彼に相応しいカードを選んで、お守りとして渡してあげたんだ。

 だから、今でも一枚、欠けたままなんだよ」

 晶はそのお人好し加減に呆れてしまい、気の抜けたように真澄を見詰めた。

 「馬鹿だなあ、真澄は。

 まあ、でも、きみがそうしたいんだったら、そうすればいいさ。きみのカードなんだし。

 …‥それで、何のカードを、生徒会長に渡してあげたんだい?」

 「ソードのペイジ…‥そのカードは、冒険を通じて見聞を広げて、成長したいという意欲に溢れている時に、出るカードなんだ。

 新しい道に進んでいく彼を勇気付けたいと思った時に、それ以上ぴったりのカードは、他に思い付かなかった」

 晶は、ソードのペイジを受け取った時の生徒会長が、どんな表情をしていたのか気になった。

 恐らくその瞬間だけは、ナイーブな素の感情を曝け出していたことだろう。

 だが、敢えて真澄に確かめなかったのは、その部分こそが、生徒会長が軽々しく第三者に口外して欲しくないことに違いないと、思い至ったからだった。




 ~~~ 完 ~~~



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