第12話 ネバネバ『ネンマ』とヌルヌル『ヌ・ルヒョン』
文字数 2,184文字
義務だから眠る、ではなく、疲れたから眠る。
俺は元々、寝付きは良いほうだ。
眠ってしまえば、この二つに大きな違いは無い。
では、何が違ってくるのか。
それは目覚めだ。
圧倒的に違う。
今までに味わったことがない清々しさ。
脳みそを邪魔する存在が何一つ無いから、視界はすこぶる晴れやかだ。
「胸肉が食べたい…」
脳みそを邪魔する存在が何一つ無いから、思ったことが口から零れてしまう。
「すぐに手配しよう」
突然、雑音が耳に入ってきたが、何故か不快に感じなかった。
俺は上半身を起こし、声の主を探した。
声の主は、俺の右横で胡坐をかいて座っていた。
「あんたは?」
肌は褐色でスキンヘッド。
まるで納豆みたいな男だった。
「ワシ?ワシは『ネンマ大王』だ。ネバネバネンマ~。お前は?」
真の雑音はここにあり、か?
「俺はクーだ」
でも何故か、不快な気持ちにはならなかった。
「胸肉はどれくらいで用意できる?」
「既にいるぞ。お前の背後に」
そう言ってネンマ大王は、俺の背後を指した。
俺の腹は、ひどく空いていた。
だからすぐに振り返った。
「ワガハイの名は『ヌ・ルヒョン』じゃ。ヌルヌルヌ・ルヒョ~ン」
俺の背後に立っていた男がそう言った。
男の肌は青白く、黒の長髪で肩まで伸びていた。
しかし、ただの長髪ではなかった。
髪全体が、何やら粘度が高そうな液体で濡れていた。
濡れてまとまった毛がまるで、鰻のようだった。
不快極まりない。
いつもの俺ならすぐに殺そうと手を伸ばしていたのだが、俺の脳は今、かなり冴えていた。
そしてその冴えた脳がこう言っていたのだ。
(どう殺すかではない、どう逃げるか、だ)
ヌ・ルヒョンもその横にいるネンマも、確実に俺より強い。
全速力で逃げて、女の胸肉を食って、力を蓄えて、それでそれで…。
あれ?
もしかして俺、ぬるいこと言ってる?
俺って、こんなにも情けない奴だったっけ?
俺は足を止めて、振り返った。
振り返って、ネンマとヌ・ルヒョンを視界に入れた。
そして次の瞬間に、後頭部に衝撃が何度も走り、俺は再び眠りに落ちてしまった。
今回の目覚めは当然、最悪になる。
俺は激しい頭痛を噛み殺しながら、上体を起こした。
「ヌ・ルヒョンの胸肉を食うとでも?」
そう言ってネンマがへらへら笑うと、それにつられたヌ・ルヒョンも、へらへらと笑い始めた。
「俺を殴ったのはどっちだ?」
俺はそう言って、ネンマとヌ・ルヒョンを交互に睨んだ。
するとヌ・ルヒョンが、俺の背後を指した。
「はぁ…」
あの町の連中は、やたらと背後がお好きなようで。
俺は渋々振り返った。
もう何を見ても驚くまいと思っていたのだが、
「おいおい…何だよこいつら…」と不覚にも俺は、驚いてしまったのだ。
学生服を身に纏った三メートル程の木の群れと全身が女の胸肉だらけの首長竜が、俺の背後に立っていたのだ。
「驚いたろ?ヌ・ルヒョン、説明をよろしく」
「かしこまりました」
そう言ってヌ・ルヒョンが、得意気に俺を見ながら、まずは木の群れを指した。
「彼らは『オスグッドウッド』です。急激に伸びた足のムズムズを抑えるため、足癖は非常に悪くなっています。ちなみに、彼らの体は非常に堅いですよ」
何の話だ?と思いつつも、俺はヌ・ルヒョンの次の言葉を待った。
ヌ・ルヒョンは一つ咳払いをし、話を続けた。
「そしてあの首長竜の名は『五十三首』です。文字通り、五十三の首があります」
「ほう!?まさか、乳首のことか!?」
これには思わず声を発してしまう。
そして、俺のその驚く声を聞いたヌ・ルヒョンはどこか嬉しそうだった。
「そうです!まずは彼女の首を上からご覧ください。一番上にはAの文字が書かれた乳房が二つ、その下にはBの文字が書かれた乳房が二つ、その下にはC、Dと彼女の首にはXまでの乳房が並んでいます。『五十三首』とは、一つの首と五十二の乳首を合わせた数でございます。そんなことよりクー様、このアルファベットが示す意味はなんとなくお分かりですね?」
「サイズ?」
「そうです。では次に彼女の前足と後ろ足をご覧ください。四本足全て乳房になっており、前足はYカップの乳房、後ろ足はZカップの乳房でございます」
「なるほど、これで『五十三首』」
俺はそう言ってネンマを見た。
「あんたが俺に食わせたかったのは、この化け物のことだったのか」
「まぁな」
俺は何も考えず、最も好みのサイズであるEの乳房に手を伸ばしたのだが、Eの乳房は石のように硬く、さらには、五十三首の首が急に長く伸び始めたかと思うと、強力なヘッドバッドが目にも止まらぬ速さで俺を襲ってきた。
「こいつも強いのか…そして」
気付けば『オスグッドウッド』たちが俺と『五十三首』を囲んで立っていた。
「こいつらも強い」
「そうだ。そして今からお前には、こいつら全員を倒してもらう。まず五十三首はな、Aから順にいけ、じゃないともげねぇからな。Zまでいけたらオスグッドウッドの群れは簡単に倒せるだろう。その頃には、それくらいの力が身に付いている筈だ」
ネンマが頬杖を突きながら、そう言ってきた。
「クー、お前一人で築き上げてきた強さがどこまで通用するか、しっかりと見届けさせてもらうぞ」
「ちっ」
偉そうにしやがって。
「望むところだ」
ここをクリアしたら次はお前らだ。
ネンマ。
ヌ・ルヒョン。
俺は元々、寝付きは良いほうだ。
眠ってしまえば、この二つに大きな違いは無い。
では、何が違ってくるのか。
それは目覚めだ。
圧倒的に違う。
今までに味わったことがない清々しさ。
脳みそを邪魔する存在が何一つ無いから、視界はすこぶる晴れやかだ。
「胸肉が食べたい…」
脳みそを邪魔する存在が何一つ無いから、思ったことが口から零れてしまう。
「すぐに手配しよう」
突然、雑音が耳に入ってきたが、何故か不快に感じなかった。
俺は上半身を起こし、声の主を探した。
声の主は、俺の右横で胡坐をかいて座っていた。
「あんたは?」
肌は褐色でスキンヘッド。
まるで納豆みたいな男だった。
「ワシ?ワシは『ネンマ大王』だ。ネバネバネンマ~。お前は?」
真の雑音はここにあり、か?
「俺はクーだ」
でも何故か、不快な気持ちにはならなかった。
「胸肉はどれくらいで用意できる?」
「既にいるぞ。お前の背後に」
そう言ってネンマ大王は、俺の背後を指した。
俺の腹は、ひどく空いていた。
だからすぐに振り返った。
「ワガハイの名は『ヌ・ルヒョン』じゃ。ヌルヌルヌ・ルヒョ~ン」
俺の背後に立っていた男がそう言った。
男の肌は青白く、黒の長髪で肩まで伸びていた。
しかし、ただの長髪ではなかった。
髪全体が、何やら粘度が高そうな液体で濡れていた。
濡れてまとまった毛がまるで、鰻のようだった。
不快極まりない。
いつもの俺ならすぐに殺そうと手を伸ばしていたのだが、俺の脳は今、かなり冴えていた。
そしてその冴えた脳がこう言っていたのだ。
(どう殺すかではない、どう逃げるか、だ)
ヌ・ルヒョンもその横にいるネンマも、確実に俺より強い。
全速力で逃げて、女の胸肉を食って、力を蓄えて、それでそれで…。
あれ?
もしかして俺、ぬるいこと言ってる?
俺って、こんなにも情けない奴だったっけ?
俺は足を止めて、振り返った。
振り返って、ネンマとヌ・ルヒョンを視界に入れた。
そして次の瞬間に、後頭部に衝撃が何度も走り、俺は再び眠りに落ちてしまった。
今回の目覚めは当然、最悪になる。
俺は激しい頭痛を噛み殺しながら、上体を起こした。
「ヌ・ルヒョンの胸肉を食うとでも?」
そう言ってネンマがへらへら笑うと、それにつられたヌ・ルヒョンも、へらへらと笑い始めた。
「俺を殴ったのはどっちだ?」
俺はそう言って、ネンマとヌ・ルヒョンを交互に睨んだ。
するとヌ・ルヒョンが、俺の背後を指した。
「はぁ…」
あの町の連中は、やたらと背後がお好きなようで。
俺は渋々振り返った。
もう何を見ても驚くまいと思っていたのだが、
「おいおい…何だよこいつら…」と不覚にも俺は、驚いてしまったのだ。
学生服を身に纏った三メートル程の木の群れと全身が女の胸肉だらけの首長竜が、俺の背後に立っていたのだ。
「驚いたろ?ヌ・ルヒョン、説明をよろしく」
「かしこまりました」
そう言ってヌ・ルヒョンが、得意気に俺を見ながら、まずは木の群れを指した。
「彼らは『オスグッドウッド』です。急激に伸びた足のムズムズを抑えるため、足癖は非常に悪くなっています。ちなみに、彼らの体は非常に堅いですよ」
何の話だ?と思いつつも、俺はヌ・ルヒョンの次の言葉を待った。
ヌ・ルヒョンは一つ咳払いをし、話を続けた。
「そしてあの首長竜の名は『五十三首』です。文字通り、五十三の首があります」
「ほう!?まさか、乳首のことか!?」
これには思わず声を発してしまう。
そして、俺のその驚く声を聞いたヌ・ルヒョンはどこか嬉しそうだった。
「そうです!まずは彼女の首を上からご覧ください。一番上にはAの文字が書かれた乳房が二つ、その下にはBの文字が書かれた乳房が二つ、その下にはC、Dと彼女の首にはXまでの乳房が並んでいます。『五十三首』とは、一つの首と五十二の乳首を合わせた数でございます。そんなことよりクー様、このアルファベットが示す意味はなんとなくお分かりですね?」
「サイズ?」
「そうです。では次に彼女の前足と後ろ足をご覧ください。四本足全て乳房になっており、前足はYカップの乳房、後ろ足はZカップの乳房でございます」
「なるほど、これで『五十三首』」
俺はそう言ってネンマを見た。
「あんたが俺に食わせたかったのは、この化け物のことだったのか」
「まぁな」
俺は何も考えず、最も好みのサイズであるEの乳房に手を伸ばしたのだが、Eの乳房は石のように硬く、さらには、五十三首の首が急に長く伸び始めたかと思うと、強力なヘッドバッドが目にも止まらぬ速さで俺を襲ってきた。
「こいつも強いのか…そして」
気付けば『オスグッドウッド』たちが俺と『五十三首』を囲んで立っていた。
「こいつらも強い」
「そうだ。そして今からお前には、こいつら全員を倒してもらう。まず五十三首はな、Aから順にいけ、じゃないともげねぇからな。Zまでいけたらオスグッドウッドの群れは簡単に倒せるだろう。その頃には、それくらいの力が身に付いている筈だ」
ネンマが頬杖を突きながら、そう言ってきた。
「クー、お前一人で築き上げてきた強さがどこまで通用するか、しっかりと見届けさせてもらうぞ」
「ちっ」
偉そうにしやがって。
「望むところだ」
ここをクリアしたら次はお前らだ。
ネンマ。
ヌ・ルヒョン。