第4話 理想と現実
文字数 1,568文字
「おい、優介!。コレ持ってけ」
「はい、大将」
叫ぶ伊達に優介は、手慣れた動作で資材を運んで行った。伊達の下でバイトを始めて優介も大分、板について来た。
伊達はよく優介に音楽業界の裏話をした。芸能事務所ネタから女ネタまで幅広い知識を優介は、新鮮な思いで乾いた砂が水を吸う様に覚えて行った。
言わば優介の、ひいては殲滅狂太のはじめての指南役と言っていい。
気難しい伊達もなぜか、根が真面目な優介には気を許すようになっていた。
そんなある時、優介はずっと疑問に思っていた事を聞いた。
「大将はなんでこの業界にそんなに詳しいんですか?」
「あぁ?、そうだな」
伊達は、しばし考え答えた。
「なんだかんだ言って好きだからだな」
そこでピンと来た優介は聞いてみた。
「もしかして、大将も昔、ミュージシャンだったとか?」
その直後に見せた伊達の顔を優介は、忘れない。それは今までに見せたことのない暗さを持った顔だった。
気まずい空気が流れ、沈黙が続いた後、伊達は言った。
「優介、この業界にだけは間違っても入んじゃねぇぞ」
そして、それ以降、伊達は何も話さなくなった。
やがて、組み上がったステージにアーティスト達が現れ、最終チェックを済ませた後、フェスが始まった。優介は後方で待機しながら、その様子を見ていた。
主にまだ芽の出ていない若手が主体のフェスであったが、優介にとっては憧れの対象だ。
「僕も早くあそこに上がりたい……」
そんな思いでステージを見ていたときだった。一人のアーティストがステージに現れ、演目を始めるや否やそのパフォーマンスに優介は、目を見開いた。
心を鷲掴みにされたと言っていい。かつて受けた事のない衝撃だった。
確かに荒削りだったが、人を惹きつけてやまない周囲を圧倒するパワーが溢れている。
それに比べればまるで自分がやっている音楽がママゴトみたいに思える程の違いだった。
「凄いっ……」
優介は、慌ててアーティスト名をリストから確認した。
白鳥恭介ーーそれは、先日、伊達が「天才だ」と評していたアーティストだった。
やがて、そのアーティストの演目はあっという間に終了し、ステージを去って行ったのを見て、ほとんど衝動的に優介は走った。
ステージの裏の控え室に入って行くその白鳥恭介に優介は、思わず声をかけた。
「あ、あの……」
白鳥恭介は、ジロっと優介を睨んでいる。
「その……なんて言うか、格好良かったです……その……」
それ以上、言葉が出ない優介に白鳥恭介は、フンっと鼻を鳴らし吐き捨てる様に言った。
「ザコは引っ込んでろ」
そして、それ以上何も言わずに去って行った。
優介は、まだその場に突っ立ったまんまで声が出ない。ふと気がつくと伊達が後ろに立っていた。
「どうだ?、あの白鳥恭介は?」
伊達に聞かれ、優介は正直に答えた。
「凄かったです」
「あぁ、まさに天才だ。この業界はな。定期的にああいう天才が現れる。で、あの白鳥恭介に比べて優介、お前はどうなんだ?」
そう聞かれて優介は、悩んだ。確かに足元にも及ばない。だが、その絶望感とともにそこに挑戦したいと言う心の底から湧き起こる何とも言えない高揚感があるのだ。
やがて、優介は伊達に言った。
「僕、まだまだだけど、いつかはあんな風になりたいです」
「そうか……」
伊達は、そんな優介を見ながら言った。
「確かに夢を持つ事はいい。だがな、圧倒的な才能を前にこれまで積み上げて来たものが全て抜き去られてしまう様な時が来る。心折れ涙も出ないくらいにな。そうなったとき、お前は恐らく人が変わってしまうだろう。その覚悟だけは持っておく事だな」
そう話す伊達の言葉は、地を這うような伊達の人生から滲み出た言葉だった。
「はい、大将」
叫ぶ伊達に優介は、手慣れた動作で資材を運んで行った。伊達の下でバイトを始めて優介も大分、板について来た。
伊達はよく優介に音楽業界の裏話をした。芸能事務所ネタから女ネタまで幅広い知識を優介は、新鮮な思いで乾いた砂が水を吸う様に覚えて行った。
言わば優介の、ひいては殲滅狂太のはじめての指南役と言っていい。
気難しい伊達もなぜか、根が真面目な優介には気を許すようになっていた。
そんなある時、優介はずっと疑問に思っていた事を聞いた。
「大将はなんでこの業界にそんなに詳しいんですか?」
「あぁ?、そうだな」
伊達は、しばし考え答えた。
「なんだかんだ言って好きだからだな」
そこでピンと来た優介は聞いてみた。
「もしかして、大将も昔、ミュージシャンだったとか?」
その直後に見せた伊達の顔を優介は、忘れない。それは今までに見せたことのない暗さを持った顔だった。
気まずい空気が流れ、沈黙が続いた後、伊達は言った。
「優介、この業界にだけは間違っても入んじゃねぇぞ」
そして、それ以降、伊達は何も話さなくなった。
やがて、組み上がったステージにアーティスト達が現れ、最終チェックを済ませた後、フェスが始まった。優介は後方で待機しながら、その様子を見ていた。
主にまだ芽の出ていない若手が主体のフェスであったが、優介にとっては憧れの対象だ。
「僕も早くあそこに上がりたい……」
そんな思いでステージを見ていたときだった。一人のアーティストがステージに現れ、演目を始めるや否やそのパフォーマンスに優介は、目を見開いた。
心を鷲掴みにされたと言っていい。かつて受けた事のない衝撃だった。
確かに荒削りだったが、人を惹きつけてやまない周囲を圧倒するパワーが溢れている。
それに比べればまるで自分がやっている音楽がママゴトみたいに思える程の違いだった。
「凄いっ……」
優介は、慌ててアーティスト名をリストから確認した。
白鳥恭介ーーそれは、先日、伊達が「天才だ」と評していたアーティストだった。
やがて、そのアーティストの演目はあっという間に終了し、ステージを去って行ったのを見て、ほとんど衝動的に優介は走った。
ステージの裏の控え室に入って行くその白鳥恭介に優介は、思わず声をかけた。
「あ、あの……」
白鳥恭介は、ジロっと優介を睨んでいる。
「その……なんて言うか、格好良かったです……その……」
それ以上、言葉が出ない優介に白鳥恭介は、フンっと鼻を鳴らし吐き捨てる様に言った。
「ザコは引っ込んでろ」
そして、それ以上何も言わずに去って行った。
優介は、まだその場に突っ立ったまんまで声が出ない。ふと気がつくと伊達が後ろに立っていた。
「どうだ?、あの白鳥恭介は?」
伊達に聞かれ、優介は正直に答えた。
「凄かったです」
「あぁ、まさに天才だ。この業界はな。定期的にああいう天才が現れる。で、あの白鳥恭介に比べて優介、お前はどうなんだ?」
そう聞かれて優介は、悩んだ。確かに足元にも及ばない。だが、その絶望感とともにそこに挑戦したいと言う心の底から湧き起こる何とも言えない高揚感があるのだ。
やがて、優介は伊達に言った。
「僕、まだまだだけど、いつかはあんな風になりたいです」
「そうか……」
伊達は、そんな優介を見ながら言った。
「確かに夢を持つ事はいい。だがな、圧倒的な才能を前にこれまで積み上げて来たものが全て抜き去られてしまう様な時が来る。心折れ涙も出ないくらいにな。そうなったとき、お前は恐らく人が変わってしまうだろう。その覚悟だけは持っておく事だな」
そう話す伊達の言葉は、地を這うような伊達の人生から滲み出た言葉だった。