第1話

文字数 8,010文字

「エノタ、エノタに到着です。お忘れ物はないようご注意ください」
 列車の中にアナウンスが鳴り響く。黒髪の男は眠りから覚めると、目の前に草原が目に入った。緑が一面に広がり、都会からやってきた男にとっては新鮮で、でもなぜか懐かしい気持ちになれる光景であった。男が穏やかな気持ちになっていると、車掌が後ろの車両からやってきて、通路を歩きながら周りの乗客に呼びかけた。
「各停サマー行き、間もなく発車します」
 その言葉に、男はビクッと反応した。
「す、すみません、今どこに停まってます?」
「エノタですが」
 『エノタ』聞き覚えのある駅だった。男はコートのポケットに入った名刺を取り出した。そこには『アンノウンズ』という名前が書かれており、その裏をめくるとそこには目的地への行き方が記されていた。そこには『エノタ駅』が最寄り駅と書かれていた。男は慌てて網棚に置いていたトランクを下ろした。
「お、降りまーす!」

 男は急いで列車から降りると、すぐに後ろの列車が発車し、駅を去っていった。男は少し深呼吸しつつ、その列車を見送った。ここから、自分の人生がまた始まる。男は、地面に置いていたトランクを持ち上げ、改札へ向かった。改札で切符を渡し外へ出ると、ちょうど目の前には大通りが存在していた。その大通りは町の奥に見える丘に続いていた。男は再び名刺を取り出し、裏に描かれている地図を見ると、そのまま大通りを真っすぐ向かうと目的地に着くと書かれていた。それがわかれば、もう大丈夫かな。男はそのまま大通りに向けて歩き出した。
 大通りに沿って木造の建物がズラリと並んでおり、野菜や果物などの食物はもちろん、雑貨屋や衣服店なども存在していた。ちょうど暖かい時期だったことと、まだ明るい時間であったため、それなりに多くの人でにぎわっていた。といっても、都会から来た男にとっては少し少ないと感じる程度の人の多さだった。歩いていると、少しずつ甘い匂いがしてくる。その甘い匂いを辿ってみると、そこにはお菓子屋が建っていた。店の前の看板には華やかに彩られたたまごが飾られている。なんか見たことあるのだが、なんだったか。男は必死に思い出そうとするが、ついに思い出せないまま、お菓子屋の戸を開いた。
 カランカランと扉に取り付けられたベルが店内に鳴り響く。それに合わせて、店の奥からいらっしゃいませと声が聞こえた。男はそのまま店内をじっくり見て回った。入口の前にはカウンターがあり、透明の棚にはケーキがずらりと並んでいる。右に進むと、クッキーやブラウニー、マフィンなどのお菓子がそれぞれラッピングされて飾られていた。それぞれ見ていくと、あるパッケージがふと目に入った。透明な包みの中にたまご型のクッキーが入っていた。そのクッキーには様々な色のチョコレートでカラフルにトッピングされていてそれはそれは愛らしかった。包みの上部に結んであるリボンは春を彷彿とさせるような草原と花の色をしていた。男はこれを二つ取り、カウンターに持って行った。カウンターに立っていた店員は、笑顔で受け取り男に金額を提示した。男が小銭を取り出しているときに、店員はにこやかに質問を投げかけた。
「見ない顔ですね。ここは初めてで?」
「あ、はい! ちょっと訪ねるところがあって、これ金額合ってますか?」
「ひーふーみー、ちょうどですね。お預かりします」
 店員がレジ箱を開き、会計で貰った小銭をそこに入れる。男はふと思い、ポケットから名刺を取り出した。
「あの、確認したいんですが、ここに描いてある場所に行きたいんですけど、この大通りを真っすぐいった先に建物ってありますか?」
「ん?……ここかぁ」
 店員は名刺を見て、少し眉間に皺を寄せた。んーと重苦しい声を漏らしたと思ったら、その訳を話してくれた。
「この先には確かに建物はありますよ。あるけど……本当に行く気ですか?」
 店員にそう聞かれて男は驚くが、そのまま頷いた。
「行くんですが、何かあるんです……?」
「あるというか、町はずれの草原に建物はあそこだけなんだけど、良い噂聞かないんですよ」
「噂?」
「お化けが出るんです」
「お化け?」
 男の問いに、店員は深く頷いた。
「なんでもその屋敷にはお化けが住んでいて、夜な夜な笑い声が聞こえてくるらしいんですよ。私は行ったことないんだけど、昔肝試しっていって屋敷に忍び込もうとしたやつらがいて、そいつらが化け物を見たとか言ってましてね。まぁ、みんな半信半疑ではありましたが、今はあの屋敷に近づこうと思う人はいませんよ」
「でも住んでる人はいるんでしょう?」
「え? 住んでる人? いるのかなぁ。聞いたことも見たこともないですね」
 男は途方に暮れた。ちょうどその屋敷に行こうとしていたのに、そんな話を聞かされてしまっては都会で出会った金髪の男の、名刺を渡してくれたあの男への信頼度が下がってしまうではないか。しかし、男にはもう帰る場所がない。後戻りは出来ないのだ。男は肩をすくめるしかなかった。
「お話はわかりました。とりあえず、行ってみますよ。教えてくれてありがとうございました」
 カウンターに置かれたお菓子の包みが入った袋を持ち上げ、コートのポケットの中に入れた。店員は口をあんぐり開けた。
「えぇ!? 行くの!?」
「呼ばれてますし……」
「誰に?」
「屋敷の持ち主……かな?」
「それ本当に大丈夫?」
 男は諦めたように苦笑いした。
「ここまで来ちゃったから、最後まで確認しないとね」
 それじゃ、と男は立ち去ろうとする。店員はかけよって扉を開けたが、男が出て行く前に伝えるべきことを伝えた。
「何かあったらすぐにここに来るんだよ。いつでも協力するから!」
 その言葉に男は目をぱちくりさせたが、すぐに柔らかい笑顔になった。
「ありがとうございます。その言葉を貰えただけでも十分です」
 そう言うと、男は立ち去った。店員は心配そうに男を見つめ続けた。
「どうか彼に神のご加護を……」

 男は先ほどの店員の言葉に喜ぶ半分、先が見えない未来に不安を抱いていた。本当に目的に向かっていいのだろうか。でも、あの人は自分を助けてくれたし。そう考えてしまう自分にため息をつきつつ、男は丘の上を目指した。大通りを抜けると、周りから建物が一気に消えて草原が広がる。奥には森が広がっているようだが、そこへたどり着くには少し時間がかかるだろう。男は真っすぐ進んでいく。しばらく上っていくと、大きな屋敷が見えてきた。大通りにあった家々とは違いレンガ造りになっており、この町でも一番資産価値がありそう、つまりはお金持ちの家に見えそうだなと男は考えていた。そうこうしている内に、屋敷の前に到着した。
 屋敷の扉は木製で両開きになっているが、その扉は閉じられていた。扉の色だけでなく、建物自体も雰囲気が暗いため草原の中に穴がぽっかり空いているような、そんな気分になってくる。男は少し震えたが、それを抑えるように深呼吸をした。そして、扉に付いている野獣型のドアノッカーに手をかけ、ドンドンと叩いた。
 ……返事はない。
 男はもう一度ノックした。しかし、待てど待てど返事だけでなく、屋敷の中から何か音や声がない。完全に無音だった。
「やっぱこうなるか……」
 男はそうぼやきながら名刺を見る。地図では間違いなくここである。お菓子屋にも確認してもらったから間違いない。しかし、誰も出てこないとは。金髪の男もいないのか? いないことにはどうしようも動けない……。やはり騙されたのか。男が落ち込んだ、その時だった。
 ガシャーン。カン、カン、カン。
 突然の音に男は飛びあがった。今、音しなかったか!? 男は扉に耳を付けてみる。声は聞こえない。聞こえないが、誰かが歩いている音は聞こえる。男は耳を離し、もう一度ノックした。
「誰かいらっしゃいませんか! おーい!」
 しかし、返事はなかった。むしろ、ノックをしたことで走る音が奥に消えていったような気がした。このままでは埒が明かない。しかも長旅からのこの状態だったので疲労感は増していく。少し休もうと男はしゃがみ、体を支えるためにドアノブに手をかけた。
 ガチャン。ギギギ。
 扉が、開いた。男は固まった。
(えぇ、普通開く? どんだけ不用心な家なんだよ)
 心の中ではそう思ったが、その気持ちに反して体は少し震えていた。
「お、お邪魔しまーす……」
 男はゆっくりと扉を押して中に入った。薄暗いが、目の前に大きな階段があり、上に行くにつれ二股に分かれている。その二股に分かれた階段の下には廊下が二つ伸びていて、灯りが付いていた。絶対に誰かいる。
 バンッ。
「ひゃぁっ!!」
 男は叫んだ。後ろを振り返ると、扉が閉まった音だとわかった。
「な、なんだぁ。ドアか」
 男は脱力して項垂れた。
(なんでこんなことにビビったりしているんだろう。僕はここに働きに来ただけなのに、誰も返事してくれないし、隠れるし、なんなんだ一体)
 ガタン。
「うるさい!」
 突然出てきた音に男は思わず叫び、そこでふと我に返った。さっきの音、右の廊下からしなかったか? 男は早歩きで右側に進んだ。
「すみません! どなたかいらっしゃいませんか! アトラスという者なんですけど!」
 やはり返事はないが、進み続けるしかない。アトラスと名乗った男は、廊下を見てこれまた驚いた。その廊下の両端には鎧と動物のはく製が並んで置かれていた。両端に同じものが並び、鎧、はく製、と交互に並び、かつ皆通路側に体を向けていた。どうしてこんな並べ方しちゃったのと、アトラスは金髪の男の感性が心配になったが、ここの廊下から音が聞こえたのは間違いないので、そのまま中へ進んでいった。
 進むたびに鎧、はく製、鎧、はく製の順に交互に睨まれるので居心地が悪かったが、そんなこと考えても仕方がないので叫びながら進んだ。
「誰かいませんか! アトラスなんですけど!」
 鎧はどれも同じ時代のものとは思えなかった。素材も形も異なる。はく製も肉食が多いが、見たことがないものも数多く存在した。よくもまあこんなに集めたものだ。
「アンノウンズさんいらっしゃいませんかー!」
 名刺に書かれた名前を呼んでみた。金髪の男と出会ったときも、彼はそう名乗った。それ以外に名前を知る機会がなかったからその人物の名前を叫んでみたが、もちろん返事はない。
「誰かいるなら返事してくださーい!……ん?」
 アトラスはちょっとした違和感に襲われた。
(さっき、はく製と鎧が向き合ってなかった? さっきまでずっとはく製同士、鎧同士で向き合っていたはず。そのはずなのに、いやまさか……)
 アトラスは後ろを振り返った。鎧と、ライオンのはく製は前のめりになっていた体をすぐに戻した。アトラスはそれを見逃さなかった。
(動いたよね? 明らかに動いたよね? いや、待って気のせいかな。目の錯覚か何かかもしれない。なんせ廊下の灯りが不安定に明るくなったり暗くなったりなんだもん。なんか自分のことも信用できなくなってきた)
 アトラスは、また歩き出した。十歩くらい歩いたところで、また瞬時に振り返った。鎧とライオンのはく製は流石にいち早く反応して元の場所に戻った。
(うん、これは動いてる。たぶん動いてる)
 アトラスは動いたであろう鎧とライオンのはく製の元に近づいて、鎧を軽くコンコンと叩いてみたり、はく製を撫でてみたりしたが動かない。アトラスは絶対動いてるという気持ちと、勘違いであるという気持ちが両方膨らんでしまい、結局その場を離れることにした。が、少し歩くと、鎧特有の金属のこすれた音が聞こえて、アトラスは振り返った。鎧は慌てて元の場所に戻った。アトラスはその二体に呼びかけた。
「そこにいんのわかってんだよ! 出て来たらどうだ!」
 しかし、声も音もしない。アトラスは頭を掻いた。普通これが強盗やそういった類ならすぐに襲い掛かってくるはずなのに、後ろにいるやつらは何もしてこない。犯罪者の類ではないことはなんとなくわかるが、それでも何者かわからない。これは参ったどうすればいいのやらと頭を悩ませてると、金髪の男『アンノウンズ』に言われた言葉を思い出した。
『そうだそうだ。家にいる子どもたちはね、だるまさんが好きなんだ。何度もやらされたことがあって、それはもうマジで疲れた』
 彼は笑顔で話していた。鎧とライオンのはく製の正体はわからないが、もしかしたら子どもたちが隠れているのかもしれない。すごく恥ずかしいがやってみるしかないだろう。アトラスは彼らに背を向け少しずつ歩きながら大声で叫んだ。
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだっ!」
 振り返ると、鎧とライオンのはく製が通路側に乗り出し、固まっていた。アトラスは内心ノリノリじゃねえかとツッコんだが、気を取り直してまた前を向いて叫んだ。
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだっ!」
 また振り返ると、鎧の方が近づいてきていて、ライオンのはく製は出遅れていた。アトラスは内心ライオン頑張れ! と声援を送った。でも、ここまで近づいてきてるなら、捕まえられるかもしれない。アトラスは少しアレンジしてみた。
「だーるーまーさーんーがーころんだっ!」
 最後を走り気味に叫んで後ろを振り向いた。すると、止まり切れなかったのか鎧が倒れて、その上にライオンも乗っかった。ジタバタしている鎧とライオンの元へアトラスは歩いていき、しゃがんで鎧に手を置いた。
「はい、動いた」
「うあああああ!!」
 叫んだのは鎧ではない。ライオンの方だ。ライオンの姿なら、あの咆哮がイメージされるだろうが、そのライオンのはく製の口からは少々強気な少女の声がした。
「せっかくバレずに済むと思ったのに! イオン! お前が前に出て邪魔するから!」
「レオンだってわたしの足踏んだくせに!」
 鎧からも少女の声がしたかと思いきや、鎧とライオンは二人で言い争いを始めた。アトラスはそのやりとりをぼーっと見ていたが、ここで気が付いた。
 そういえば、この屋敷には子どもがいたはず。たしか、ふたり。
「あのー、ちょっといい?」
 アトラスは二人に話しかけた。
「この家に子どもが二人いるはずなんだけど、知りません?」
 鎧とライオンは静かになった。ゆっくりとアトラスの方に顔を向けた。
「なんで知ってるの」
「つーか、なんでここにいるの」
 一気に空気が張りつめる。危機を察知したアトラスは一歩後ろに下がった。ライオンは鎧の上から下り、鎧は立ち上がった。
「不法侵入!」
「不法侵入!」
「はい?」
 ライオンと鎧が口々に叫んだ。
(不法侵入!? いや確かに勝手に入っちゃったけど)
 と、アトラスは心の中でぼやくが、そんなのをおかまいなしに鎧はライオンにまたがった。ライオンは先ほどよりも身体を大きくさせる。気づくと、アトラスが見上げるくらい大きくなっていた。
「でっかぁ……」
「天誅!」
「へ?」
 ライオンと鎧が叫んだかと思うと、鎧は手に持っていた剣をアトラスに振り下ろした。アトラスは後ろに下がって避けたが、また剣を振り下ろされそうになったため奥の部屋に向けてダッシュした。
「待てー!」
「逃がさんぞ、不法侵入者―!」
「うっかり入っちゃったけど、不法侵入じゃないからー!」
 二人からの言い分に対してアトラスは反論したが、その言葉は余計に怪しまれるだけであった。鎧とライオンは周りにある他の鎧やはく製を薙ぎ払いながらアトラスに迫る。アトラスは寸前のところでかわしていくが、それが精いっぱいだった。
「嘘つきはダメだぞー!」
「そうだー! えんまさまに舌を抜かれるぞー!」
「えんまさまって誰ー!」

 そうこうしている内に、アトラスは奥の部屋に辿り着いた。そこには暖炉、ソファーが三脚あり、床には絨毯が敷かれていた。しかし、出入り口が一個しかなく、周りを見回しても行き止まりになっていた。ドスンと音が鳴り、振り返ると鎧とライオンが部屋の中に入ってきていた。アトラスは後ずさりしたが、最終的に壁まで追い込まれた。
「もう終わりだー!」
「死ねー!」
 あぁ、もうダメかもしれない。アトラスは壁に触れていた手を下ろした。すると、自身のコートのポケットの膨らみに触れる。そこでアトラスは思い出した。その間にも剣が降り降ろされようとする。アトラスはすぐさまポケットに手を入れ、中身を取り出して二人の前に突き出した。剣の動きが止まった。二人はお菓子の包みをじっと見ていた。ゆっくりと首を同時に傾げる。
「これ何?」
「何?」
「あの、お土産というか、今日特別な日でしょ? なんていう日か忘れちゃって出てこないんだけど……たまごがたくさん町に飾ってあったんだ」
 すると、二人は叫んだ。
「イースターだ!!」
 気づくと目の前には鎧とライオン、手に持っていたお菓子の包みの姿はなく、目の前にはふたりの少女が立っていた。
 ふたりともロングストレートの髪の毛だが、ひとりは水色、もうひとりは黄緑色の髪色と目の色をしていた。そのふたりはアトラスから奪い取ったお菓子の包みをキラキラした瞳で見つめていた。アトラスは呆気にとられたが、すぐにしゃがみこみ少女たちに話しかけた。
「さっきのって君たちなの?」
 ふたりの少女はアトラスの方を向くと、うんと頷いた。
「そうだよ」
「だってあんた不法侵入じゃん」
 その言葉にアトラスは少し顔が歪む。
「いや、勝手に入っちゃったのは謝るけど、僕はここに来てって言われてここに来たんだよ。アンノウンズさんの家ってここで合ってる?」
 『アンノウンズ』という名前を聞いて、ふたりの少女はお互いに顔を見合わせた。その後、またアトラスの方を見た。
「パパが言ってた……」
「新しい家族……」
 家族? アトラスはびっくりした。家族だなんて聞いてなかったからだ。だが、ふたりの嬉しそうな表情を見ると、何も言えなくなってしまった。
「ねえ、名前なんて言うの? わたし、イオン」
「んで、わたしがレオンな!」
 水色の髪の少女がイオンと名乗り、黄緑色の髪の少女はレオンと名乗った。アトラスも改めて名乗ることにした。
「僕はアトラス。アトラス・レロ・セバスチャンっていうんだ」
 すると、イオンとレオンはクッキーを一つ取り出し、自分の口元に持っていく。ここでアトラスは自身の失敗に気付いた。が、時すでに遅し。イオンとレオンはクッキーを舐めだしただの。
「レロレロレロレロレロレロレロレロ」
 ご丁寧に効果音付きで。
「やめてくれー! あぁ、フルネーム言うんじゃなかったちくしょー!」
 アトラスが泣き叫んでいると、廊下から声がした。
「おや、アトラスくんもう来てたんだ。ということは、娘たちともご対面は済んでるね。遠いところからご苦労様」
 三人は出口の方を見ると、そこには金髪の男『アンノウンズ』がにこやかに立っていた。
「アンノウンズさん」
「パパ!」
 イオンとレオンはアンノウンズに駆け寄った。アンノウンズはふたりの頭を優しく撫でる。アトラスは静かに立ち上がった。
「勝手に入ってすみません」
「いやいや、私こそ遅れちゃってごめんね。ところで……」
 アンノウンズは鎧やはく製がなぎ倒されてごちゃごちゃになった廊下を指さした。
「あれ、誰がやったの?」
 イオンとレオンは静かにアトラスを指さした。
「違う!」
 そんなわけで、アトラスの屋敷での生活が始まったのであった。


END
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