第3話 堕天使の告白

文字数 1,275文字

「私、親が堕天使なんだ」
 彼女は、言いづらいことを私に打ち明けてくれたみたいだった。それから、私の様子を少し窺っていた。多分彼女の中で合格点だったのだろう。話を続けてくれる。
「堕天使に対してどんなイメージを持ってるか分からないんだけど、堕天使にもいろいろいて、赤い堕天使とか、黄色い堕天使とか」
 私は堕天使の外見の話をされたことに多少の混乱を覚えながら、自分が九九を覚えたときのことを思い出した。
「堕天使ってルシファーぐらいしか知らないんだけど、他にもいるんだね」
 私は付け焼き刃の相槌を打つ。将棋を打つように。将棋は指すんだった。
 堕天使は、言葉は知っているがその実態を何も知らない。堕天使って名前だから、天使から降格した存在ということなのだろうか? 親が堕天使だと子も堕天使なのだろうか? しかし目の前に座る彼女はどう見ても人間そのものだ。堕天使が天使の一種だとするならば、彼女の背中に羽があってもいいはずだ。だが待て。堕天使だから羽がないという可能性もある。聞きたいことは山ほど、そう山盛りポテトフライほどあるが、今は彼女の話を最後まで聴くことの方が大事な気がした。
「だいぶ重い話になっちゃうんだけど聞いてくれる?」
「言わないなら聞かないけど、言いたいなら私は聴きたいよ」
 彼女は一度俯いてから、決意したように話し始めた。
「堕天使だとね。働き口を探すのも一苦労なのね。だから私のお父さんとお母さんは、いつも職を転々としてたの。最初は普通に働いているんだけど、何かのタイミングで堕天使ってバレると、毎回クビにされた。私4人兄弟の一番上だから、バイトして何とか二人を助けたいと思ったんだけど、私もこの前、堕天使ってバレてクビにされたんだよね。ずっと二人からクビにされる話を聞いてたんだけど、いざ自分が経験すると本当に辛くて。私これからもずっとこうなのかなって思ったら、未来が怖くなって」
 彼女の目は充血し始め、涙を我慢していることが伝わってきて、私も泣きそうになった。
「バイト辞める日にね、私が生活苦しくてバイトしていることを知っている人が、他の人と話しているのが聞こえてきたの。その人は言ってた、なんでそんな稼ぐ能力もないのに、子ども4人も作ったんだろうねって。私さ生活は苦しいけど、二人の弟と妹がいて本当に良かったって思ってる。なんで、何も知らない人にそんなこと言われなきゃいけないの?」
「そんな人の言うこと間に受けなくていいよ」
「もう人が信じられなくなった。未来に希望も持てなくなって、生きてる意味が分からなくなった」
「それでも、私にそれを打ち明けてくれたのはなんでなの?」
「誰かに分かってほしかったんだと思う。誰でもいいって意味じゃないよ。分かってくれる人はきっといるって信じたかった。そしたら、堕天使同士で慰め合うだけじゃなくなるし、誰も分かってくれないって腐らなくて済む。聴いてくれてありがとう」
「こちらこそ、話してくれてありがとう」

 という想定を一度した。なかなかアドリブで気の利いた言葉は言えないから準備しておくに越したことはない。
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